十一月二十七日。空が青く澄んでいたその日。安土塔の三階にて二人(正確には一テールと一手らしい)の対戦が行われた。正直、不慣れなところもあると思うが、初めてということでご容赦願いたい。
先後は初めてのクーリが決めていいとのことで、彼女の選択で先攻はクーリ、後攻はツイナとなった。なお、盤面の左右は先攻のクーリを正面として表記する。
七マスのキャラクターエリア。クーリは中心に『クーリ』のカードを配置し、左端に『佐宮菊花』のカードを。右からニマスに『檜山俊一』のカードを配置した。
『クーリ』と『檜山俊一』の移動範囲は、全方向に一マスだけ進める歩行。『佐宮菊花』の移動範囲は、斜めにニマスまで、左右に一マスだけ移動できるステップ。少し離れたところに配置したのは斜め移動を活かすため。移動範囲を知っていれば誰にでも思いつくことだ。
対するツイナは、右からニマスに『ツインテール(左)』を、その隣に『安土ツイナ』を、左から三マスの地点に『ツインテール(右)』のカードを配置した。
『ツインテール』の移動範囲は両方とも歩行。『安土ツイナ』の移動範囲は直進。前後左右にニマスまで、斜め後ろに一マスだけ進める移動範囲だ。
直進の移動範囲からすると、強敵である『クーリ』の牽制の意味が強い配置である。
「ふむ、なるほどな」
クーリは触手の先端をゆっくりと左から右へ、配置を確かめるように動かしてから、手始めに『クーリ』を一歩前進させる。
カードがないのでポニーフェイズは何もせず、ツインフェイズにはサイドから三枚の覚醒キャラクターカードをポニーに入れて、ツインから三枚のカードを引く。これにより、彼女のサイドには三枚の術式カードと、二枚の装備カードが揃った。
覚醒と術式の活用がこのゲームの肝ではあるが、覚醒条件は相手のキャラクターへの接近や攻撃、術式の使用などが多い。最初の数ターンで覚醒条件を満たすのは難しいため、リスクの少ない今のうちにサイドを補充するのは基本的な戦略といえる。
以降のフェイズもまだ何もせず、ターンはツイナに。
「ふふ、さすがにそれくらいはわかっているみたいね」
ツイナも同じように『安土ツイナ』のキャラクターカードをニマス前進させて、カードを三枚補充した。
接近する二枚のキャラクターカード。両者ともHP5に攻撃力1で、攻撃範囲は隣接する相手のみの近接。縦ニマス横一マスの距離は、どちらも一ターンで攻撃範囲内に捉えられる距離。そして『クーリ』の覚醒条件は、周囲一マスに相手のキャラクターカードが存在すること。
次のターン、クーリは『檜山俊一』のカードを前進させた。そして術式カードを右端に設置して、壁を作る。周囲の一マスを攻撃する火の術式。
術式にはいくつかの系統がある。周囲のマスを攻撃する火の術式、十字方向に長い攻撃範囲を持つ水の術式、×字方向に長い攻撃範囲を持つ地の術式、周囲のマスを攻撃し後退させる風の術式(攻撃力は火に劣る)、キャラクターカードを支援・妨害する特殊な術式が主なもの。
このターン、クーリが覚醒を狙わなかったのは、覚醒キャラクターカード『クーリ』の覚醒解除条件によるものだ。覚醒したカードは常に覚醒状態にあるわけではなく、覚醒解除条件が満たされると強化フェイズに覚醒は解除され、カードはポニーに送られる。『クーリ』の覚醒解除条件は、周囲ニマス以内にキャラクターカードが存在しないこと。ここで接近しても、覚醒を維持するためには行動が制限されてしまう。
それから数ターン、二人は術式カードを設置して相手の動きを牽制しつつ、後方のキャラクターカードを少し前進させて陣形を整えた。
『クーリ』が『安土ツイナ』に接近し、覚醒したことで戦いは序盤から中盤へと進む。『クーリ』の裏には装備で強化した『佐宮菊花』が控えていて、『檜山俊一』はキャラクターエリアへの突破を防ぐように後方で牽制を続けている。
ツイナも同じく『安土ツイナ』のキャラクターカードを覚醒させる。覚醒条件はダメージを受けること。覚醒解除条件はアタックフェイズに攻撃できないことであるが、覚醒キャラクターカード『安土ツイナ』はHPや攻撃力が低い代わりに、移動範囲が直進歩行、攻撃範囲が近接魔法という複合範囲。互いのキャラクターカードが接近した状態なら維持は簡単だ。
クーリは術式による牽制で他のカードを押さえ込みつつ、『クーリ』と『佐宮菊花』を動かして突破を試みる。対するツイナは、『安土ツイナ』を中心に、『ツインテール(右)』『ツインテール(左)』を機敏に動かして、隙を見せない。
戦いが動いたのはそれから三ターン後。クーリの仕掛けた術式が『安土ツイナ』に直撃し、それまで受けたダメージと合わせて『安土ツイナ』のキャラクターカード、覚醒キャラクターカードはポニーに送られた。
覚醒キャラクターカード、キャラクターカードの順にポニーに送られるため、再配置には一ターン、再覚醒には最低二ターンを必要とする。
とはいえ、残りのカードは二枚。攻めるカードも二枚なのですぐに突破はできない。
「さて、どう動く?」
「そうね……それじゃあ、こうしようかしら」
ツイナは『ツインテール(右)』をイレギュラーエリアに移動させて、イレギュラーエリアにいて周囲一マス以内にキャラクターカードが存在しないという覚醒条件を満たす。同時に風の術式を盤面の左側に配置した。
「ほう。カウンターか」
風の術式による後退効果を利用して『ツインテール(右)』を加速させ、左からは既に覚醒している『ツインテール(左)』を進ませる。後方を守る『檜山俊一』も覚醒はしている。魔法攻撃力を1上昇させる装備カードをつけてはいるが、それでも攻撃力は2しかなく、移動範囲は歩行のまま。攻撃範囲「魔法」はニマス離れた相手にしか攻撃できないため、一気に接近されては防ぎ切れない。
しかし、それでもクーリの二枚のカードがキャラクターエリアに侵入する方が早い。だが、その頃には『安土ツイナ』の再配置も完了していた。クーリが攻撃しなかったので覚醒はできないものの、『ツイナ』には近接攻撃力を1上昇させる装備カードがある。
このまま『クーリ』に続いて『佐宮菊花』をキャラクターエリアに侵入させても、次のターンにHPは尽きる。防御用の装備カードもついているが、効果は間接攻撃力1軽減。二枚のツインテールへの対策カードだ。
「さあ、突破できるものなら突破してみなさい」
「ふん、メス尻尾風情が。わらわがそんな挑発に乗ると思うなよ」
クーリは『佐宮菊花』を右斜め後ろに移動させて、『ツインテール(左)』が近くにいるイレギュラーエリアに移動させる。覚醒解除条件が満たされることになるが、次のターンに『ツインテール(左)』が攻撃できる位置は『檜山俊一』の攻撃範囲内。無傷とはいえHPが6と低い『ツインテール(左)』は、『佐宮菊花』の攻撃を一回、『檜山俊一』の攻撃を二回受ければ倒されてしまう。
『ツインテール(左)』の攻撃力は4で、攻撃範囲は間接。『佐宮菊花』の残りHPは3。間接攻撃軽減の装備カードの効果で軽減されても倒せるように思えるが、そうはいかない。
なお、覚醒キャラクターカードが覚醒解除されるとHPは低下するが、残りHPは維持される仕組みになっている。条件をうまく利用すればHPを回復することも可能となる。
クーリはそのHP維持のルールを利用し、もうひとつ『佐宮菊花』のキャラクターカードの持つスキルも利用した。キャラクターカードと覚醒キャラクターカードはそれぞれ別のスキルを持ち(カードによってはスキルを所持しないものもある)、覚醒前と覚醒後では使えるスキルが変わる。
覚醒前の『佐宮菊花』が持つスキルは、『静謐の地』。効果は、自身がイレギュラーエリアにいる間、全ての攻撃のダメージを1減らすというもの。他の効果と重複するので、軽減値は合わせて2となり、『ツインテール(左)』では撃破不可能となる。
「なるほどね、やるじゃない」
「ふ、その程度の甘いカウンター、通るわけがなかろう」
ツイナは構わず『佐宮菊花』に攻撃を加えて、『ツインテール(左)』を倒させる。突破しての勝利は敵わなくとも、『佐宮菊花』のHPを削れば退ける範囲が狭まる。その間に『ツインテール(右)』は術式でダメージを受けならがも前進し、クーリのキャラクターエリアに到達。
放っておいてはのちのち困ることになるので、クーリは『檜山俊一』と『佐宮菊花』を接近させて、術式も駆使して一気に撃破にかかる。術式の範囲には『佐宮菊花』も入れて、『ツインテール(右)』の撤退を防ぎつつ、体力の少ない『佐宮菊花』を一時離脱させる。術式には回復術式もあるが、全回復には足りないし、使用した術式はツインの下に送られる。
ポニーにカードのない現状では、一度離脱させた方が効率よく回復できるというわけだ。
「俊一の前で私が弱って倒れて……いたずらついでに介抱されちゃうんだね」
「せめて介抱をメインにしてくれよ」
ちなみに設定上は、倒れたキャラクターは自力で撤退するとのことなので、カードであっても俺が菊花を介抱することにはならない。
そのまま戦いは一進一体の攻防が続き、始まってから一時間が経過しようとしていた。
「メス尻尾風情が、しぶといではないか」
「あなたこそ。戦いながら上達するなんて、厄介なことこの上ないわ」
「ふん。で、続けるのか?」
「そうね……あたしとしては決着がつくまで続けてもいいんだけど、膠着状態よね」
戦いが長引いたため、両者のサイドは十枚を越えている。互いにほぼ全てのカードが使える環境。決着をつけるにはまだ長い時間を要することだろう。
「互いが決着がつかないと判断したら、引き分けっていうルールもあるんだけど、どう?」
「わらわはそれでも構わんぞ」
「了解。それじゃ、今回は引き分けにしましょう」
両者の合意の結果、二人の初戦は引き分けとなった。もしも二人だけで時間があればどうなっていたのか気になるところではあるが、それはまたの機会の楽しみとしよう。
その後、俺と菊花も同じようにゲームを開始した。クーリとツイナのように白熱した戦いにはならなかったので詳細は伏せるが、ものの十二分で菊花の勝利に終わったことだけは記しておこう。