五
神魔大陸の東。
海の先には二つの大陸。
三つの大陸を結ぶは大海。
神霊と魔が呼ぶ名は、ナホ海。
二つの伝説を知るは船乗り。
船乗りを飲み込むは大渦。
救われた船乗りは言う。
助けたのは人魚だと。
船乗りを巻き上げるは大波。
救われた船乗りは言う。
助けたのは天女だと。
人族を救いしは、人族の知らぬ謎の種族。
それは深海に暮らす種族。
ナホ海に暮らすは、神霊と魔よりも古き種族。
それは天空に暮らす種族。
わたくしはベッドの上で転がりますわ。柔らかいふわふわの、ふかふか気持ちのいい幸せな時間ですわ。このまま二度寝を……いえ、三度、四度でしたかしら? ともかく何度目かのまどろみを楽しもうとしていたわたくしの家に、来客がやってきましたわ。
時間はまだ朝早くのはずですのに、村の人にしては珍しいですわね。ファリッタならわたくしがこの時間に楽しんでいることはよく知っているはずですし、緊急ならわざわざ扉をノックなんてしないはずですわ。魔法でわたくしの家に侵入して、わたくしの上に乗って無理やり起こそうとするのですわ。
もちろんわたくしは抵抗して、ファリッタをベッドに引き込んで一緒におやすみさせようとするのですが、ファリッタは一度引き込まれてから、わたくしを転がしてベッドから落とそうとするのですわ。
でもそれも楽しくて、ころころされては目も覚めるのですわ。ああ、そんなことを考えていたら、また眠くなってきましたわ。でもお客さんですわ。けど眠いですわ。
「……んー」
決めましたわ。二度目のノックもないですし、緊急ではなさそうなので眠りましょう。きっと風か石か、自然の何かがぶつかっただけです……わ。
そしてわたくしの意識は、再び闇へと沈んだのですわ。
「あのー。起きてもらえませんか?」
そんなわたくしを再び光の世界に戻したのは、女の子の声でしたわ。
「どなたですの?」
わたくしは寝ぼけた目を擦りながら、聞いてみますわ。緑色の女の子はわたくしのベッドに乗り込んで、顔を近づけて声をかけていましたわ。
「わたしはイスミです」
「どなたですの?」
知らない名前だったので、私はもう一度繰り返しますわ。ぼんやりとイスミさんを見て、彼女がどうやってわたくしの家に侵入してきたのか考えますわ。
「……ああ、お仲間ですわね。でもわたくし、そういうのはもう卒業しましたの」
「そういうの?」
イスミさんは小首を傾げましたわ。
「違いまして?」
わたくしも同じ方向に首を傾げますわ。こっそりわたくしの家に侵入して、わたくしのベッドに忍び込んでいるのですから、てっきりそういう目的なのかと思いましたが……。
「確かに、服、着ていますわね」
でも別に、そういうのは服を着たままでもできますわ。むしろ彼女はそれが大好きで、いつもわたくしだけを脱がそうとして……あ、また眠くなってきましたわ。
そしてわたくしの意識は、再び闇へと沈んだのですわ。
ほんの数秒だけ。
イスミさんはわたくしの体を揺らして、今度は確実に起こしにかかってきましたわ。さすがにわたくしも、そこまでされては眠気が覚めていきますわ。
「用件はなんですの?」
わたくしはベッドの上で身を起こして、イスミさんに尋ねますわ。
「スーミゥさんも自然なる者ですよね?」
イスミさんはベッドの上に正座して、わたくしと目を合わせて尋ねましたわ。
「そうですわ。わたくしはナチュラルメイドな……名乗った覚えはありませんが、それがあなたの?」
わたくしが自然なる者とその他の種族を見分けられるように、イスミさんにも自然なる者としての力があるはずですわ。
「はい。それで、わたし、まだ生まれたてなんです」
「そうですの」
わたくしは小さく頷きますわ。
「つまり、そのお手伝いを……いえ、それにしてはおかしいですわね。それなら、わたくしとあなたは今が初対面でいいはずですわ。何か事情がおありでして?」
わたくしの確認に、イスミさんは頷きましたわ。
「今、イルナルヤ村の自然は危ない状況にあるんです。だからわたしが生まれたのか、わたしが生まれたからそうなるのか、そこまではわからないのですが……」
「それも自然の摂理ですわね。わたくしには、何を求めますの?」
イスミさんはお仲間であり、わたくしはお姉さんのようなものですわ。そもそも、わたくしがこの地に住むことを選んだのは、自然なる者が生まれそうな気配を感じたからですもの。いつでもお手伝いをする準備はできていますわ。
「最後の調整と、確認をお願いします。失敗はできないですから」
微笑んで気楽そうに口にしたイスミさんですが、その瞳は真剣そのものですわ。当然ですわね。もしイスミさんが失敗したら、このイルナルヤ村の自然は崩壊しますわ。
「そうですわね」
ですからわたくしも答えますわ。微笑んで、簡単なことのように。イスミさんがここまで何をしてきたのかは分かりませんが、わたくしに頼むのは最後なんですもの。わたくしに求められる役目は、大事なものでも大変なものではないはずでわ。
「では、色々教えてくださいな。イスミさんのしてきたことを。もちろん、話せる範囲で構わないですわ」
「はい。まずは、ですね……」
それからイスミさんは、わたくしに色々と、本当に色々と話してくれましたわ。お話はそれほど上手ではありませんでしたが、何が重要であるかは理解できたと思いますわ。
「確認してもよろしくて?」
「はい」
それでも、誤解があってはいけませんわ。わたくしは要点をイスミさんに確認しますの。
「重要な人物は四人。ライカさんに、アミィリアさん、トーファリッタ……アルマリカという方は存じ上げませんが、この四人で間違いありませんわね?」
「それと、スーミゥさんです」
「ええ。分かっていますわ。巫女については話せないと言いましたが……ま、何となく分かりますわね。それはまだ知らせられない情報ですのね?」
「そうではないですが、一度話すと最後にうっかり忘れてしまうかもしれないので」
「了解ですわ。それで、最終的にはどうなさるんですの?」
「自然のままに、最も良き姿に。一日でやらないといけないみたいです」
「それはまた、工夫が必要ですわね。といっても、イスミさんも途中までは思ったより簡単だと思っていたようですが」
わたくしがそう言うと、イスミさんは苦笑いを浮かべて頷きましたわ。
「結構な余裕があると思っていました。でも、それも含めてわたしが知らないといけないことなんですよね。自然なる者として、がんばります」
「自覚は、しっかりしていますのね。わたくしとは逆ですわ」
「そうなんですか?」
きょとんとした顔で尋ねるイスミさんに、わたくしは大きく頷きますわ。
「それはもう。やることを終えたら、ゆっくりお話しますわ。こうして話を聞いて、少し助言をするだけが、わたくしの役目ではないのでしょう?」
「はい」
イスミさんは笑顔で、はっきりと頷きましたわ。
わたくしとイスミさんが最初に向かうのは、おにぎり食堂ですわ。
太陽もまだ昇りきらない時間帯。イスミさんのお話を聞いていたら結構な時間が経っていましたが、お昼にはまだちょっと早い時間ですわね。ですが、アミィリアさんなら問題ないと思いますわ。
「いらっしゃいませ。あれ、スーミゥがこんな時間に来るなんて、珍しいね?」
茶色のお姉さん、アミィリアさんはわたくしを見てから、すぐに隣のイスミさんを見ましたわ。不思議そうに見てはいますが、やはり今の彼女には初めてのようですわね。
「カラッドさんはどこですの?」
「カラッドなら用事よ。お昼には戻ってくるって言ってたけど、彼に用事?」
「そうですの」
わたくしは返ってきた答えに頷きますわ。それから一瞬だけイスミさんを見て、アミィリアさんを見ますの。
「わたくしの用事は貴方ですわ。二人きりで話すには、いい機会ですわね」
「そう? 二人、じゃないと思うけど?」
アミィリアさんが見ているのは、もちろんイスミさんですわ。わたくしは頷いてから、イスミさんに目配せしますわ。
「お願いします」
「ええ。そちらも」
わたくしはおにぎり食堂の中に、イスミさんはおにぎり食堂の外に。それぞれの役目を果たしますわ。
「あの子は?」
「その前に、アミィリアさんに聞きたいことがありますわ。大事な話ですから、他の方が来ないように見張ってもらっていますの。よろしいですか?」
「私に? うん、少しならいいよ」
アミィリアさんは顔に疑問を浮かべていましたが、承諾してくれましたわ。わたくしは小さく頷いて、カウンターに座りますの。イスミさんの役目は、話が終わるまでカラッドさんを近づけさせないこと。そしてわたくしの役目は、アミィリアさんの気持ちを確かめること。万が一に備えた、完璧な役割分担ですわ。
カウンター越しにアミィリアさんを見つめて、わたくしは用意していた言葉を届けますわ。
「カラッドさんのこと、どう思っていらして?」
まずは単刀直入に、ですわ。
「大切な幼馴染みよ」
予想通り、アミィリアさんは即答しましたわ。カラッドさんも大変ですわね。
「それだけですの?」
「それだけよ?」
またも即答ですわ。本当にカラッドさんも大変ですわね。そんなアミィリアさんから聞き出さなくてはならない、わたくしも大変ですわ。
「もし……もしもですわ」
わたくしはそう前置きしてから、アミィリアさんに尋ねますわ。
「カラッドさんに告白されたらどうしますの?」
「カラッドが、私に?」
考え込む素振りを見せるアミィリアさんに、わたくしは先手を打ちますわ。
「すぐに返事はできますの?」
そう、大事なのはこれですわ。わたくしが確かめないといけない気持ちは、今はこれだけでいいのですわ。
「それは、無理かな」
アミィリアさんは困ったように微笑んで言いましたわ。
「カラッドは幼馴染みだし、いきなりそんなこと言われても、考える時間が欲しいよね」
「そうですわよね。大事なことですもの」
わたくしが言うと、アミィリアさんは小さく頷きますわ。
「うん。一日はしっかり考えないとね」
「一日、でいいんですの?」
わたくしがやや驚いた声で聞くと、アミィリアさんは微笑みを返しましたわ。
「そんな状況で、何日も待たせたらカラッドが辛いでしょ?」
「そう、ですわね。さすがですわ」
本当に仲の良い幼馴染みですのね。おそらくこの関係は、結果がどうなろうと簡単に崩れることはないのでしょう。
そしてわたくしは、最後の一言を告げますわ。
「では、一日考えてくださいな。わたくしはもう帰りますわ」
「え?」
疑問を口にして、表情にも疑問いっぱいのアミィリアさんですわ。でも今のわたくしにはこれ以上のことはできませんの。わたくしは笑顔だけを返して、おにぎり食堂を出ることにしましたわ。
「ところで、おにぎりは?」
背後からかけられた声は、いつものアミィリアさんの言葉でしたわ。切り替えの早さに少し驚きましたが、わたくしは振り返って答えますわ。
「三つ、いただきますわ」
三つのおにぎりを手に、わたくしたちが次に向かうのは村のはずれですわ。一つはわたくしの、一つはイスミさんの、そしてもう一つは親友のファリッタのものですわ。
魔法少女ファリッタの家で、おにぎりを食べながら相談をするのですわ。今頃おにぎり食堂を訪れている、優柔不断な方を促すには、わたくしだけでは力不足ですわ。そのために、彼女の協力が必要不可欠ですの。
「こんにちはっ。ファリッタのお家へようこそっ、スーミゥに、可愛い」
扉を開けて、橙色と星色の魔法少女ファリッタが登場しましたわ。
「わたしはイスミです」
「むっ。魔法少女の台詞を邪魔しちゃだめなんだよっ。そんなことしたら、魔法少女がいたずらしちゃうぞっ」
「いけませんわよ、トーファリッタ」
ステッキ片手に魔法を使おうとしていたファリッタを、わたくしはすぐに止めますわ。
「スーミゥも混ぜてあげるよっ」
「ですから、わたくしはもう卒業していますわ。それより、貴方も大体事情は理解していますわね?」
わたくしが確認すると、ファリッタはステッキを下ろして大きく頷きましたわ。
「まあねっ。イスミちゃんも自然なる者で、今日までの色々は、ぜーんぶ彼女が関係してるんだよねっ」
「え? あの、なんでそこまで。わたし、集中してちゃんとやったはず……」
動揺を見せるイスミさんに、ファリッタは笑顔で説明しますわ。
「やだなっ、イスミちゃんっ。この魔法少女ファリッタっ、魔女の家系としてこういうことの知識は豊富なんだよ? ファリッタの身に起こった不思議な出来事っ! そして現れた記憶にない女の子っ! そこから推理すれば、答えは簡単だよっ」
「そうなんですか? あの、じゃあもしかして」
動揺は収まったみたいですが、今度は不安が顔に浮かんでいますわ。こちらも、わたくしが何かを言う前にファリッタが答えましたわ。
「うーん、ライカは気付かないと思うよ? アミィリアだって気付いてないんだよね? だったら大丈夫だよっ。それにっ」
「わたくしが確認しますわ」
「そうそうっ、スーミゥもついてるから心配無用だよっ」
わたくしたちの息の合った言葉に、イスミさんも安心したようですわ。
「まずはおにぎりですわ。相談はそれからにしましょう」
「うんっ」
ファリッタに招かれて、わたくしとイスミさんは中に入りますわ。アミィリアさんの握ったおにぎりを食べながら、予定通りわたくしたちは相談を始めますわ。
「さてっ、ファリッタは何をすればいいのかな?」
「お願いは二つありますわ」
ファリッタの質問に答えるのは、イスミさんではなくわたくしですわ。わたくしの役目はイスミさんの言葉を、記憶に残る形で伝えることですわ。
「一つは、魔王さんと勇者さん、そしてお姫様のお手伝いをお願いしますわ。こちらは、ある程度分かっていますわよね?」
「そうだねっ。詳しいことは……」
「今お伝えしますわ」
わたくしはイスミさんから聞いたお話を、ファリッタに伝えますわ。全てを話す時間はありませんが、要点を絞れば時間は十分にありますわ。
魔王さんと勇者さん、お姫様の詳しい事情を話し終えて、わたくしは次に移りますわ。
「もう一つは、イルナルヤ村の伝承についてですわ」
「うんっ。湖濁りしとき 大樹は枯れ 自然なる力は失われる 大樹の実 湖に力を与え 巫女を呼び 自然なる者は輝かん……これが?」
「あれ? なんで最後まで……」
驚いた顔を見せるイスミさんですが、わたくしにとっては予想通りの展開ですわ。
「なんでって、ファリッタに調べさせたのはイスミちゃんだよね?」
「はい」
「もちろんファリッタもそのことは覚えてないけどねっ、調べたことは覚えてるよ? それもイスミちゃんの狙い通りにっ」
「あはは……はい」
朗らかに笑うファリッタに、イスミさんも微笑みを浮かべましたわ。ここまでお見通しにされては、笑うしかないみたいですわね。
「そのときに伝承の記された文献は見つかったよねっ。そのときは最後まで解読できなかったけどっ、文献さえ分かっていれば一日あれば調べられるよっ」
「それを、頼まれる前に?」
「頼んだよねっ、前にっ」
あっさりファリッタに返されて、イスミさんは戸惑ったように私を見ましたわ。わたくしは彼女に軽く笑いかけてから、ファリッタに言いますわ。
「わたくしからのお話はおしまいですわ。ファリッタからは何かありまして?」
「うーん、今はいいやっ。あ、でもでもっ」
ファリッタはそこで指を立てて、可愛くポーズを決めましたわ。
「やり方は、全部ファリッタが考えていいんだよねっ」
「程々でお願いしますね」
イスミさんは冷静に答えましたわ。
「了解っ」
そして、ファリッタは元気に頷きますわ。これで、こちらの問題は心配無用ですわね。
わたくしたちは村のはずれから戻って、道を歩きながら話しますわ。
「タヤナさんはよろしいんですの?」
「はい。彼女は特に、問題はないですから」
「そうですの」
ここからなら普段彼女のいる広場も近いですわ。でも、イスミさんが不要というのなら、わたくしからすることもありませんわ。
「では、問題はヒノカとライカさんですわね?」
「はい。慎重に接触しないといけませんから」
「まあ、問題はないと思いますが……確認は必要ですわね。少々大変ですが、二人がかりなら何とかなりますわ。ライカさんのこと、お願いしますわ」
「お願いします」
わたくしたちはそこで一旦別れて、イスミさんだけを先行させますわ。わたくしからライカさんに深い接触はできませんが、イスミさんだけなら問題ありませんわ。
しばらく歩いて、イスミさんは黒色の兄ライカさんを見つけましたわ。ヒノカは一緒ではありませんが、これもいつも通りですわ。
イスミさんはライカさんに何かを話して、広場まで誘導しますの。広場にはタヤナさんもいましたから、イスミさんにとってはよい状況ですわね。わたくしは彼女たちから視線を外して、わたくしと同じように様子を見ているはずのヒノカを探しますわ。
程なく見つかった黒色の妹ヒノカは、木の陰から大好きなお兄ちゃんを観察していましたわ。わたくしは背後から忍び寄って、声をかけますの。
「ヒノカ、見つけましたわ」
「スーミゥ? 私に何か用?」
ヒノカは平然と振り返って、わたくしの声に答えますわ。いつもの反応ですわね。
「楽しいお兄ちゃん観察の時間に失礼しますわ」
「何言ってるの? 私はお兄ちゃんを監視してるだけで、これっぽっちも楽しんでなんていないよ? スーミゥの勘違いだよ」
「そうですの?」
「うん。お兄ちゃんが変なことしないように、監視するのが妹の役目だから」
ここまではいつもの流れですわ。普段でしたら、ここで微笑ましくヒノカを見つめて、お話はおしまいですわ。ヒノカはわたくしの態度に不満そうな顔をしながらも、愛しいお兄ちゃん観察に戻るんですの。
けど今日はそうはいきませんの。わたくしも本気を出させてもらいますわ。
「本当に、ヒノカはお兄ちゃんのことが大好きですわね。当然ですわ。ヒノカにとってライカさんはとっても優しくて、とっても頼りになって、とっても格好いい、理想のお兄ちゃんなんですもの。羨ましいですわ」
ヒノカはわたくしの言葉を無視していますわ。肩はぴくりと動きましたが、その視線はずっとライカさんに向いていますわ。
「ヒノカは、それでいつも隠せていると思っていますの?」
「さっきから何の話? 私、スーミゥに隠すことなんてないよ?」
「お兄ちゃんにはありますのね」
逃がしませんわ。わたくしはすかさず言葉を返しますわ。
「ねえ、スーミゥ」
ヒノカはこちらを見ましたわ。わたくしとのお話に集中してくれるみたいですわね。
「しつこい」
「ヒノカが素直になってくれたら、すぐに終わりますわ。さあ、素直になるのですわ」
「やだ」
ヒノカは表情ひとつ変えずに、即答しましたわ。手強いですわヒノカ。
「仕方ないですわね。わたくしも本気を出しますわよ? ヒノカなら、もちろん知っていますわよね?」
「本気って、もしかしてあれ?」
「ライカさんなら大丈夫ですわ。イスミさんはわたくしのお仲間ですの」
「……別に、私はそんなにお兄ちゃんのこと心配してない。タヤナさんもいるし、お兄ちゃんの好みだって」
ヒノカの言葉を聞きながら、わたくしは魔法の準備をしますわ。わたくしとヒノカを囲むのは、流麗たる水。それは霧となり、泡となり、二人の姿を包みますわ。そよぐ風が全身を撫でて、運ぶのは水に包まれし全てですわ。
瞬くより早く、この世界の別の場所へと。水は天に、天は水に――ですわ。
わたくしたちの体はベッドの上にありましたわ。ベッドに横たわるヒノカの上に、わたくしが被さって逃がしませんわ。もちろん移動するときに靴は脱がしていますわ。
「ねえ、スーミゥ」
「なんですの?」
「なんですの、じゃない。なんでこんな格好なの?」
ヒノカは真っ直ぐにわたくしを見つめて、真剣な声で聞きますわ。
「大事な話はベッドの上でと、わたくし教わりましたの」
「……へえ」
ヒノカは抵抗はしないみたいですわ。警戒もしていませんが、不満はいっぱいですわ。
「この魔法を教えたのと同じ人から?」
「そうですわ。他にも彼女には色々教わって……懐かしいですわ」
わたくしは頷きますわ。ここですぐに攻めてもいいですが、急いではいけないとも教わっていますわ。まずはヒノカのしたいようにさせて、そこから私が動くのですわ。
「これ、人族の魔法じゃないよね? ここまでしたんだから、教えてくれるんでしょ?」
「天魚族の水天魔法ですわ。わたくし、大得意ですのよ」
「うん。この家も、それで運んできたんだったよね」
「ですわ」
わたくしの家は、天魚族の天空都市から一夜で運んできたものですわ。一夜でこれほどの家が建ったのですから、そのときは村の人たちに驚かれたものですわ。特にファリッタには警戒されて、色々と事情を話すことになりましたが、おかげで今は親友ですわ。
「天魚族って、聞いたことないけど」
「そうですわね。ラトカの船乗りの伝説も、ここまでは伝わっていないはずですわ。でもそれはまた今度でよろしくて? もちろん、話したらヒノカが素直に全てを告白してくれると言うのでしたら、わたくしも全てを話しますわ」
「うん、じゃあまた今度で。私が素直になるのも、また今度で」
「いやですわ。ヒノカ、逃がしませんわよ」
わたくしとヒノカはじっと、見つめ合いますわ。ここまでして、そう簡単に逃がすわけにはいきませんの。今のうちに、少しは素直になってもらいますわ。
「どうしても?」
「ヒノカをお嫁さんにいけない体にしてでも、素直にさせますわ。わたくし、そういう知識と経験は豊富ですのよ」
「好きにしたら? どうせお兄ちゃんのお嫁さんにはなれないし」
ヒノカがちょっとだけ素直になりましたわ。やはり、ベッドの上が一番ですわね。
「少数で暮らす、竜の民の間では近親婚も認められていますわ。ここイルナルヤ村でも、そういう縛りはないと聞いていますわ。ここはどこの国にも属さないのでしょう?」
わたくしは笑顔で、事実だけを口にしますわ。
「そんなのはどうでもいいの。私なんかじゃお兄ちゃんには釣り合わないし、お兄ちゃんは私のことを妹としか見てないし、だから私はお兄ちゃんから離れないといけないの」
対してヒノカは、冷静に返してきましたわ。ちょっとは素直になっていますが、言葉に感情がこもっていませんわね。ならばわたくしが、背中を押せばいいのですわ。
「無理してますわね」
「してない」
「でも、とても純粋ですわ」
今度はすぐに答えは返ってきませんでしたわ。ヒノカはわたくしから目を逸らそうとして、でも逸らさずにはっきりと言いましたの。
「それが、何? 私はお兄ちゃんのことを大好きで、ずっと一緒にいたいと思ってて、離れたくないと思っていても、こんな気持ちは絶対に伝えられない。伝えてお兄ちゃんに嫌われるなんて、そんなことに私は耐えられない。耐えられなくなって私が死んじゃったら、お兄ちゃんは死ぬまで後悔する。だから私は、普通の兄妹として、お兄ちゃんから離れるしかないの」
一呼吸置いて、ヒノカは言いますわ。
「スーミゥには関係ない。これ以上、踏み込んでこないで」
確かに、ヒノカの言葉は正しいですわ。イスミさんのため、ヒノカには素直になってもらう必要がありますが、それはライカさんに気持ちを伝えるという意味ではありませんの。そこまでしなくても、目的は達成されますわ。
ヒノカの気持ちが揺れていないことを確認するのが、今回のわたくしの役目。それはもう果たされていますわ。完璧に、狙い通りに。
ですから、ここからはわたくしの無駄な行動ですわ。これは夢、全てはイスミさんの見せる夢なのですわ。そしてこの夢の記憶は、ヒノカには残らない。わたくしや、一度イスミさんが夢を見せた方々にしか、夢の記憶は残らないのですわ。
「関係は、ありますわ」
それでも、だからこそ、わたくしは決意を口にするべきなのですわ。ヒノカの記憶には残らなくても、わたくしの記憶にははっきりと残るんですもの。
「ヒノカの気持ちは、自然で純粋な気持ちですわ。ナチュラルメイドなわたくしが、その気持ちを否定するのは、わたくしの存在を否定するのと同じですの。ですから、ヒノカが何と言おうと、関わらせてもらいますわ」
わたくしは笑顔で、一息に言い切りましたわ。
「スーミゥ、それ、本気?」
わたくしは頷きますわ。
ヒノカも頷きましたわ。
「当然、最後まで関わってもらえるんだよね?」
「もちろんですわ。子作りから子育てまで、関わりますわ」
「……気が早い」
ヒノカは呆れた顔で、それでも微かに笑みを浮かべて、答えましたわ。
わたくしとヒノカが広場に戻ったとき、そこにいたのはイスミさんと、琥珀色のタヤナさんの二人だけでしたわ。ヒノカはすぐにお兄ちゃんの行き先を尋ねて、わたくしに「ありがとう」とお礼を言ってから、早足で追いかけていきましたわ。
そんなわたくしたちの様子を見て、イスミさんとタヤナさんはわたくしを見ますわ。
「スーミゥさん、あの」
「分かっていますわ」
心配するように見上げるイスミさんに、わたくしは笑顔で答えますわ。
「タヤナさん、お二人とはどんなお話をしましたの?」
「ゴウハさんとリトラさんの話だよ。イスミちゃんが聞きたいって言ってさ」
「そうですの」
二人はヒノカとライカさんのご両親ですわ。そしてタヤナさんに行商人としての心得を教えた方とも聞いております。共通の話題で盛り上げて、時間を稼ぐには最適ですわね。
「スーミゥは?」
「ヒノカと今後の兄妹関係についてのお話をしましたわ。それについては、いずれタヤナさんにも協力してもらうことになりますが……よろしいですわよね?」
わたくしが言葉を最後まで口にするより早く、タヤナさんは微笑んでいましたわ。当然、返ってくる答えも期待通りですわ。
「当たり前。でも、どうなの二人の様子は? あたしはずっと村にいるわけじゃないし、そりゃスーミゥよりは付き合い長いけどさ」
「でも、わたしはそこまで急がなくてもいいと思います」
イスミさんも自然に加わりましたわ。タヤナさんにどこまで話したのかは分かりませんが、彼女が驚いていない様子を見ると、ヒノカとライカさんと何らかの関係があることは知っているみたいですわね。
「ま、二人もまだ若いしねー。でも、若いからこそ気持ちも動きやすい、ってこともあたしはあると思うな。ライカは苦労するだろうけど」
「そうですわね。その点、イスミさんから見てどうですの?」
「どう、って……」
わたくしたちに困った顔を向けて、イスミさんは言いますわ。
「ライカさんのことを一番よく知っているのは、もちろんヒノカですわ。でも貴方は、ヒノカの知らないライカさんの姿も知っているのではなくて?」
「ああ、なんか詳しいらしいからね。なぜかあたしのことも知ってるし、今は話せないって言うから聞かないでおくけどさ」
タヤナさんは小さく肩をすくめて、わたくしを見ますわ。わたくしからも今は話す気はないので、わたくしは首を横に振りますわ。
「わたしも心の中までは分かりませんよ」
イスミさんは真面目な顔で答えましたわ。
「だから、余計なことはあまりしない方がいいと思います。その、いい機会、であるのは分かっていますけれど」
「そうですわよね」
「ライカもヒノカのことが大好きだし、悲しませるようなことはしないとしても、立派な男の子だからね。突然は動揺するんじゃない?」
話の流れにイスミさんは微笑んでいますわ。でも甘いですわね。このわたくしが、この流れを予想していないとでも思っていらして?
「心の準備ができていれば、おそらく動揺もしませんわ」
「お! スーミゥ、そこまでやる気?」
「あ、あれ? あの」
何かを言おうとしながらも、混乱して言葉が見つからない様子のイスミさんは無視ですわ。「やるのはヒノカですわ。今なら、ヒノカを傷つけることなく、とびきり大胆なこともできますのよ。簡単に説明しますわ」
そしてわたくしは、思いついた作戦を二人に話しますわ。イスミさんは終始困った顔をしていて、タヤナさんも心配そうな顔をしていましたが、最後の言葉で問題ありませんわ。
「ちなみに今はイスミさんが見せている、夢の中ですの。わたくしや、ライカさんの記憶にしか残りませんわ」
「よし! それなら問題ないね。……って、それあたしも覚えてないってこと? そもそもイスミちゃんが……うーん、よく分からないけど、本能が真実だって告げてる!」
「うう……強引です、スーミゥさん」
「ヒノカのためですわ。さあ、作戦開始といきますわよ!」
わたくしの号令に、タヤナさんは威勢よく答えましたわ。イスミさんも小さな声で、もう反論はしませんでしたの。わたくしの最後の調整、本気でやらせてもらいますわ。
タヤナさんがライカさんを見つけるまで、わたくしとイスミさんは広場で待機ですわ。ライカさんがここに来れば、一緒にヒノカもついてきますわ。そこからがわたくしたちの出番ですの。ヒノカを確保、説得して、ライカさんに告白させるのですわ。
しばらく待って、タヤナさんが戻ってきたのは夕方ですわ。ライカさんも一緒ですの。時間はさほど残っていませんが、人が揃っているなら問題ありませんわ。
「ライカさん、受け止めてくださいな!」
やってきたライカさんに、わたくしは駆け寄って抱きつきますわ。少々誤解が生まれてしまうかもしれませんが、少々なら気にする必要はありませんわ。ライカさんにはこれから、少々どころではない大事件が起こるんですもの。
「ちょっと、スーミゥ。お兄ちゃんに変なことしないで」
すぐにヒノカが木の陰から出てきましたわ。わたくしたちに近づいてきて、困惑するライカさんを軽く突き飛ばしますの。
「お兄ちゃんも離れて。えっち、変態」
突然のことにライカさんは困惑するだけで、言葉を返す余裕もありませんわ。続いてヒノカはわたくしの腕を引っ張って、お兄ちゃんに声が聞こえないように木陰へ移動させますの。ライカさんの足止めは、タヤナさんとイスミさんの二人にお任せですわ。
「どういうこと?」
ヒノカが詰め寄ってきましたわ。反射的にわたくしがほんの少し後退すると、ヒノカは両手を伸ばしてわたくしの動きを封じました。背中には樹木、見事に誘われましたわ。
「ヒノカがライカさんに告白するお手伝いですわ」
「私は確かに認めたけど、今日やるなんて聞いてない」
「話してませんもの。それにヒノカと別れてから思いついたのですわ」
わたくしとヒノカは見つめ合いますわ。そのまま数秒、ヒノカが折れる気配は見えませんでしたので、わたくしは勝手に話を進めますわ。
「とりあえず、ライカさんとキスですわね」
「ちょっと、勝手に進めないで」
「何をどうするのか、決めるのはヒノカですわ」
「というか、なんでキス?」
ヒノカも少しは興味が出てきたようですわね。わたくしはすぐに説明しますわ。
「どさくさ紛れに唇を触れ合うくらいが、今のヒノカにちょうどいいと思いまして。不慮の事故を装えば言い訳も聞きますわ。まずはライカさんに、ヒノカが女の子であると意識させることが大事ですわ」
「理解はしたけど、別の方法ないの?」
「それは、ヒノカ次第ですわ」
わたくしが提案したのは、あくまでも一番やりやすい方法ですわ。不慮の事故を装うといっても、装うのはわたくしとタヤナさんですの。ヒノカは予見していた事故に、ライカさんと一緒に巻き込まれる形になりますわ。
しかし、ヒノカが自分の意思で動けるなら、手段は他にいくらでもありますわ。やりすぎな行為を除いても、キスにこだわる必要はありませんの。
「でも、やっぱり急ぐ必要はないと思うんだけど」
それでもヒノカはまだ乗り気じゃないようですわ。彼には悪いですが、ヒノカのために名前を使わせてもらいますわ。
「そんなことを言っていると、カラッドさんよりも大変なことになりますわよ? 時間が経てば経つほど言いにくくなりますわ。幼馴染みと兄妹、どちらがその影響が大きいか、分からないヒノカですの?」
「……う」
効いていますわ。新たな関係を導くきっかけは、どちらも待っているだけではなかなか訪れるものではありませんわ。だからわたくしは、声を強めて言いますの。
「ヒノカが動くなら、今ですわ!」
イスミさんの存在は、その大きなきっかけですわ。わたくしにとっても、ヒノカとライカさんにとっても、アミィリアさんとカラッドさんにとっても、さらには村を訪れた魔王と勇者の方々まで。
「さあ、いかがしますか?」
「う……分かったから、強引にはやめてよね。私が素直になれば、いいんでしょ?」
ヒノカはようやく認めてくれましたわ。わたくしは彼女の瞳を見つめながら、小さく頷きますわ。それから、念のために背中も押しますの。
「安心してくださいな。わたくしも傍にいますわ。どうしてもというときは……」
「任せる気はないけど、任せてあげる」
わたくしとヒノカは微笑み合いますわ。そしてわたくしたちは、ライカさんの待っている広場の中央に戻りますの。ヒノカを先頭に、わたくしは一歩後ろに続きますわ。こちらを向いたライカさんも、ヒノカの雰囲気にはすぐに気付いたようですわね。
わたくしはタヤナさんとイスミさんに目配せして、足止めは終わりにしますわ。二人も気付いてはおられると思いますが、万が一にも勘違いがあっては困りますもの。
「お兄ちゃん」
ライカさんの前に立って、ヒノカは言いましたわ。距離は数歩分、二人が手を伸ばせばちょうど届く距離ですわね。
「その、ひとつ聞くから答えて」
「ああ、いいよ」
有無を言わせぬヒノカの言葉に、ライカさんは笑顔で頷きましたわ。
「お兄ちゃんは私のこと、好き?」
素直な妹の質問ですわ。ヒノカも緊張はしていないようですわね。
「うん。もちろん」
ライカさんも素直に答えますわ。こちらは普段と同じですわね。
「ヒノカは僕のこと、嫌いじゃないよね?」
ライカさんから攻めましたわ。でも平然としたあの様子、ヒノカとしてもこれくらいは予想通りだったみたいですわね。さすが、いつも見ているだけはありますわ。
「聞かないと分からないほど、お兄ちゃんが鈍いなんて思わなかった」
「いや、その、念のために確認したくてさ。ヒノカ、最近は僕と一緒にいてくれないから」
ヒノカはいつもライカさんを見ていますわ。でも、それには気付いていないようですわね。ライカさんが鈍いのではなく、ヒノカが優秀すぎるのですわ。
「……私は、お兄ちゃんのことが好きだよ」
少し迷うような素振りを見せてから、ヒノカが言いましたわ。
「でも昔の好きとは違う。だから、お兄ちゃんと一緒は恥ずかしい。ただの仲の良い兄妹として見られるのも、壊したくなっちゃうくらいに」
ライカさんは神妙な顔で、ヒノカの言葉に耳を傾けていますわ。
「私はお兄ちゃんと、もっと大人の兄妹関係になりたい」
ヒノカははっきりと言いましたわ。ライカさんの目を見ているのは、ここからでもはっきりと分かりますの。だって、ライカさんが視線を逸らさないんですもの。
「……どういう意味?」
数秒の沈黙の後、ライカさんは聞きましたわ。でも誰も驚きませんわ。ヒノカの気持ちを知らなければ、そういう意味とは解釈できないですもの。仮にライカさんが同じ気持ちでいたとしても、ここで断定するのはリスクが大きすぎますわ。
「どういうって、その、ええと……」
ヒノカはわたくしの方を見ましたわ。これはつまり、わたくしに後押しをして欲しいということですわね。そう思ってわたくしが笑顔を返すと、ヒノカは小さくゆっくりと首を横に振りましたわ。わたくしは彼女の意思を理解して、小さくゆっくりと頷きますわ。
私がやるから、邪魔をしないで――ヒノカの勇気、見せてもらいますわ。
「こういうこと」
大きく二歩。ヒノカは踏み出して、ライカさんに近寄りますわ。そして背伸びをして、唇をライカさんに触れさせますわ。目は……ヒノカですから、必ず開けているはずですわ。
ほんの一瞬、唇をお兄ちゃんに触れさせたヒノカは一歩引いて、距離をとりますわ。
「……えっと、今のは」
ライカさんは自分の唇に指先を伸ばして、ヒノカを見つめますわ。
「これで分からないお兄ちゃんなんて知らない。分からないなら、忘れてもいい。私は……私は……うう」
ヒノカは素早く振り向いて、わたくしの方を見ましたわ。さらにこちらに近寄って、わたくしの後ろに隠れましたの。
「スーミゥ、任せていい?」
「いくらわたくしでも、無理ですわ。でも……お時間のようですわね」
「何のこと?」
ライカさんには聞こえないように、わたくしはヒノカと言葉を交わしますわ。顔はライカさんにも見えませんし、わたくしも見れませんわ。わたくしの目に映るのは、呆然と立ち尽くすライカさんと、空に輝く月。そして……。
「ありがとうございました。スーミゥさん」
笑顔でわたくしにお礼を言う、イスミさんの姿ですわ。隣で微笑まし見守るタヤナさんもいましたけど、わたくしがそれを意識できたのは、ほんの僅かな時間でしたの。
「スーミゥがやれって言うから、でもやったのは私だけど、けどやっぱりやりすぎたかも、お兄ちゃんどうしよう」
最後に聞こえたのはそんなヒノカの呟きですわ。やりすぎというのはキス以上のことをしてから、具体的には……その考えは、最後まで考えることもできませんでしたわ。