飛都国

ウガモコモ篇


   カカミ神社の神代り その二

 カカミ神社の神殿内、その一室に。シララス、カザミ、クゥラの三人は集まっていた。

「やはり、お二人の国にも届きましたか」

「はい。信じられないですけど、でも」

「……シァラーゼお兄様は、まだ……」

 カザミの言葉に答える、シララスとクゥラ。声には戸惑いが、顔には迷いが見える。

「書状はお持ちですね? 拝見します」

 チカヒミからの書状が届いたのは、先日の戦いの最中、夜が明けた頃だった。

「はい」

 シララスは答えて、クゥラは頷いて、書状を手渡す。書いている内容は全く同じ、違いがあるのは細かな文字の形だけ。同一人物が書いた手書きの書状のため、現れた僅かな違いである。

 『ココカゼ、カカミ、マコミズのみなさんへ。

  ココカゼの心生み ヒノミアリアクス

  マコミズの真者 シァリィグラーゼ

  強い二人はチカヒミが捕らえた。丁重に扱っているので、心配は無用。

  私の要求は変わらない。

  要求を呑むのなら、二人は返す。

  要求を呑まないのなら、戦いは続く。

  私は戦いを望まない。でも、シララスにクゥラ、カザミが望むなら、戦う。

  長くは待たない。しばらくしたら、こちらから動く。

  答えが出たら、伝えに来て。あの場所でいつでも、私は待ってる。

                      チカヒミのメガミコ〈女神子〉 ルーンカ』

「ふふ、『あの場所でいつでも、私は待ってる』だなんて、まるで恋文のようですね」

 二人に書状を返してから、カザミは微笑を浮かべてそう言った。

「カザミさん、こんなときに冗談は困ります」

「あら、わたくしは別に、シララスに言ったつもりはないですよ? もっとも、あの場所で出会ったクゥラさんならともかく、わたくしに対してとは考えにくいですが……。いえ、彼女が強き将であるなら、戦場で惚れた可能性は否定できませんね」

 小さく肩をすくめつつ、真面目な顔で考え出したカザミに、シララスは何も言わない。クゥラも黙って話を聞いているだけで、会話に加わろうとはしなかった。

「とりあえず、お二人の気持ちを聞かせてもらいましょう。要求を呑みますか? それとも戦いを続けますか? 迷っている、という答えでも結構ですよ」

 カザミに尋ねられて、最初に答えたのはシララスだった。

「要求を呑みたくはないですけど、師匠が負けたのに、俺が勝てるんでしょうか」

 シララスの言葉に、クゥラも答えを続けた。

「シァラーゼお兄様が負けたのです。理由はどうあれ、いえ、だとしても……」

 二人の答えを聞いて、カザミは小さく頷いてから声を発した。

「そうですか。やはり、ショックは大きいようですね」

 包み込むように、優しく笑う。平然とした様子の彼女に、シララスは尋ねた。

「凄いですよね。カザミさんは平然として、ショックなんて受けてないみたいで」

「当たり前です。この気持ちを、あなたたちにぶつけても意味がないでしょう」

 カザミから返ってきた答えに、少しばかり予想と違った答えに、シララスはぽかんとした表情で彼女を見つめる。クゥラも不思議そうな瞳で、彼女の顔を見ていた。

「わたくしの作戦が甘かったせいで、ヒミリクが捕らえられたのですよ。そうです。思い返せば、強き将が二人いる可能性は否定されていなかったのです。戦い方をもっと深く分析していれば、別人であると見抜けたはずです。だからこれはわたくしの敗北。しかしながら、あちらの将――ルーンカさんの策略がわたくしを上回っていたのですから、後悔はしません。

 でも万が一、もしものことですが、彼女たちがヒミリクを傷つけようものなら、わたくしは一切の容赦なく、チカヒミとの戦いに臨むでしょう。いえ、そもそも、ヒミリクを捕らえたという時点で、わたくしに容赦する理由などないのです。

 でも、わたくしはカカミの神代り。そして、シララス、クゥラ――支えを失った二人を放っておいて、一人で勝手に戦いになど出たら、救出したヒミリクに叱られてしまいます」

 全てを言い切った様子のカザミへ、最初に口を開いたのはクゥラだった。

「あの、シァラーゼお兄様は」

「カカミの守りはどうするんですか?」

 続いたシララスの疑問もまとめて、カザミは答える。

「ついでに救出して、チカヒミを倒せばカカミも守れます。ちょっとくらい襲われることがあっても、カカミの民は理解してくれるでしょう。知っていますか、一般にカカミ神社とは、神代りの鎮座する神殿を指す言葉ですが、当代の神代りは奔放でたまにしか鎮座しないというのは、カカミでは有名な話なのですよ。一般の定義が怪しいものですね。カカミの別称、飛行都市神社国家の通称――そちらで使われることの方が一般的ではないでしょうか」

「その奔放の理由が、師匠なんですね」

 シララスはすぐに理解を示した。初対面のときに彼女に恋愛感情を尋ねられた意図が、今になってようやく理解できた。

「その通りです」

 カザミは笑って頷いてから、言葉を続けた。

「もちろん、これはあくまでもわたくしの気持ち。お二人にも一緒に戦ってもらう理由にはなりません。ですが、わたくしはまだ、負けたなどと思ってはいない……三人でなら勝ち目はあると、それだけは伝えておきましょう」

「お兄様とヒミリクさんが、二人でも負けた相手に、私たちが勝てるのですか? 強き将はもう一人……ユーヒという方もいるのでしょう」

 クゥラが冷静に、カザミの言葉に疑問を投げかけた。

「もちろんです」

 カザミも冷静に、その疑問に答える。彼らにチカヒミからの書状を届けたのは、もう一人の強き将であるユーヒ。名を告げたのは最初に訪れたカカミにいた、カザミに対してだけであったが、彼女の話からシララスとクゥラも彼のことを知っている。

「そのユーヒという将は、丁寧に戦いの推移も伝えてくれました。それを伝えることで戦意を削ぐ――実際、多少の効果はあったみたいですね。でも、わたくしには通じません。あの戦いでヒミリクとシァリが負けたのは、相手が二人だったから。ルーンカさんの力がどれだけ高くとも、彼女たちを相手に二対一では良くて互角ということでしょう。それでは二人を圧倒し、降伏を認めさせて捕らえることなどできない」

「どうしてそう言い切れるんですか?」シララスが聞く。

「そうでなければ、最初から彼女が前線に出て、救援や撤退が難しい場所まで二人を誘き寄せて、まとめて倒せば済む話です」

 シララスは納得した顔で、「なるほど」と頷く。クゥラも言葉にこそ出さなかったが、表情で納得の事実を示していた。

「つまり、ルーンカさんとユーヒ――二人の将を分断して、各個撃破すれば問題ない。単純な話でしょう?」

「じゃあ、俺かクゥラがユーヒを引きつけて、カザミさんとどちらかが……」

「いえ、あちらも策士ですから、お二人にユーヒを引きつけ続けるのは難しいでしょう。彼だけであれば問題はなくとも、ルーンカさんのシンペイも混じっていることでしょうし」

「あの、もしかして」何かに気付いた顔でクゥラが聞く。

「はい。シララスとクゥラの二人で、ルーンカさんを倒して下さい。わたくしでしたら、いつまででもユーヒを引きつけられますし、相手に油断があれば捕らえることもできます。今のお二人なら、やれますね?」

 シララスとクゥラは顔を見合わせる。そして同時に、カザミをまっすぐに見た。

「やれるかどうか、試させてもらってもいいですか?」

「そもそも私たちは、まだ共闘したことがありません」

「無論、最初からそのつもりですよ。お二人の実力を確かめないと、どんな作戦が有効なのかを考えることもできませんから。ただ……最後の決め手は、わたくしではなく、お二人で」

 微笑するカザミに、シララスとクゥラは再び顔を見合わせる。

「戦いは二対一。その代わり、作戦では上回れってことか?」

「私に聞かないで下さい。でも、お兄様を助ける最後の一手は私たちでというのは、悪くないと思います。……自信はまだ、ないですけれど」

「その自信も、つけてもらわないといけませんね」

 カザミは二人が振り向くのを待って、言葉を続けた。

「ヒミリクとシァリがお二人を育てて、鍛えた理由。それはもちろん、前回のような戦いを可能にする意味もありますが……もう一つ、こういうときに、反撃の手段を残しておくという意味もあったのですよ。そしてこの二つの条件は、同時に整っているはずなのです」

 カザミは二人の間を抜けて、神殿の一室から外へと向かう。

 シララスとクゥラも彼女を追いかけて、外に出た。あまり長くは残されていない時間。それぞれの現在の実力を確認し合い、実行可能な作戦を考え、残った時間は少しでも可能な限り力を高める。

 完全に固まっているカザミの決意と違い、シララスとクゥラの決意はまだ半分。

 しかし、それもカザミの前で試すまでのこと。一対一では敵わない相手でも、作戦次第では二対一の状況に持ち込み、勝利することができる。そうカザミが判断し、シララスとクゥラも自覚してからは、彼らの決意もかなり固まりつつあった。

 互いに未熟な時期だったとはいえ、かつて全力でぶつかり合ったことのある相手。どちらも奇策を使う戦い方でないのもあって、共闘に慣れるのは存外に早かった。

 無論、彼らがヒミリクやシァリから様々な知識を教わり、その中に共同作戦での戦い方があったのも大きいが、それ以上に二人の相性が良かったのもあるだろう。

 守りに強いクゥラと、少数を扱い攻めるのが得意なシララス。守りながら攻め、攻めながら守る。それをこなすには抜群の相性だった。

 問題は、いかにして合流するか――その作戦である。

「わたくしがユーヒを引きつけるまではいいとして、お二人には自力で合流してもらわないといけません。チカヒミの一般将――一般将を装わなくなったルーンカさんのシンペイは、手加減などしてくれないでしょう」

 それについては、この場では結論が出なかった。幸いにして、まだ時間はある。そして今度の作戦は、絶対に失敗することができない最後の機会。入念に準備を進め、勝利のための道を完璧に整備しなければならない。

 そこで彼らは一旦別れて、一人一人がそれぞれの作戦を考え、しばらくして再びこの場所に集まることにした。このままカカミで考えるも、心橋を使ってココカゼやマコミズで考えるも自由である。環境、相談相手、様々な環境の変化が新しい発想を生み出す。

 期待ではなく、確信を持って。彼らは個別に作戦を考えるのだった。

 一人カカミ神社の神殿に残ったカザミは、捕らわれたヒミリクのことを想いながら、彼女の育てた弟子――ヒミリクは認めていないが――と、もう一人の少女のことを考えていた。

 「最後の決め手は、わたくしではなく、お二人で」――そう言ったのは、彼らへの信頼の証ではなく、期待の現れである。万が一に備えて、彼女も策は複数考えている。彼らの安全に配慮した、確実ではないが確実性の高い作戦から、彼女を中心に身を危険に晒しながらも、絶対に失敗することのない作戦まで。

 危険が及ぶのが自身だけであれば、カザミは迷わずその作戦を選んでいただろう。だが、シララスとクゥラの二人どころか、ココカゼ、カカミ、マコミズの民にまで危険が及ぶ可能性があるのでは、おいそれと選択することはできない。

 もちろん、二人の提案する作戦次第では、選択肢の一つとして提案するつもりだが、備えるのは万が一。

 大事なヒミリクに鍛えられた彼と、シァリという強き兄に鍛えられた彼女。神域で直接確かめたその力を見ても、彼らなら期待をかけるに値する。

 それでもカザミは、万が一の作戦を考え続ける。彼らの作戦が失敗しても、自らの力だけで状況を覆せる戦術を。前とは違う。今度の戦いは、必ず勝たなければいけないのだ。こちらの身を捨ててでも、そして相手が捨て身の戦法をとってきたとしても、負けずに勝つ戦いをしなければいけない。

 それと同時に、もう一つ。カザミが考えていたのはユーヒとの戦い方だった。

「ふふ、作戦に従ったとはいえ、わたくしのヒミリクを罠にかけた報い……彼にはたっぷりと受けてもらわなくてはなりませんね」

 誰にともなく呟き、カザミは微笑み考え続ける。容赦ない、必勝の戦略を。

 シララスはカカミ神社を遠くに眺めながら、林の中で作戦を考えていた。考えているのは一人だが、すぐ隣にはクゥラもいて、彼女も同じく神社を眺めながら一人で作戦を考えている。

 今回の作戦で重要なのは、自分たち二人の動き。まだ相談はしないが、いつでも相談できるように。どちらともなく行動し、二人はごく近い場所で作戦を考えていた。

 あの場所で会ったルーンカのことを考える。クゥラは話に聞いただけだが、シララスは彼女がシンイキを広げられるのを目の前で見た。彼がこうして戦えるようになったのも、彼女の手助けがあってこそだ。

 なぜ彼女は自分を助けたのか。答えは考えても出ないから、深くは考えない。ただ一つだけもしかしたらと思うのは、ルーンカはこうなることを想定していたのではないかということ。

 だとしたら……。

 前回の戦いは最初から、彼女の思い通りに動いていたことになる。

 そしてその思い通りの展開は、きっとまだ続いている。師匠と兄を捕らえられ、一度は諦めかけても、シララスとクゥラの二人は再び立ち上がる。カザミという先輩がいるから、彼らの選ぶ選択は間違いなく戦いの続行。

 その上でもう一度、戦いによって破られたら、自分たちはどうなるだろうか。

 シララスは考えて、迷いながらも結論を出した。作戦を練って、全力で戦って、それでも完敗して、鍛えてもう一度戦うだけの意志は、今の自分にはない。唯一、カザミだけは諦めないかもしれないが、彼女の動機は師匠にある。師匠を利用すれば、彼女の戦意も失わせられるだろう。

 例えばであるが、チカヒミの管理下であれば二人に特別な立場は与えない――心生みとしての使命も、神代りとしての役目も、全てチカヒミが――ルーンカが引き受ける。

 それはつまり、神代りとしての立場を気にすることなく、いつでも二人でいてもいいということ。当然、戦う相手はいないのだから、世界は平和そのものだ。恋愛感情で動く者には、恋愛感情を利用すればいい。それも、本人の望む形で。

 自分だったら多分、それで落ちるかもしれない。特定の相手がいるわけではないけれど、師匠に女心を学べと言われたときから、そういう気持ちも少しは理解できるようになったと思う。

 クゥラは考えるまでもなく、答えを理解した。兄も敗れて、自分も敗れて、それは決定的なマコミズの敗北。少なくとも自分たちは、潔く負けを認める。仮にカザミが戦いを続けたとしても、一人で勝てる相手ではない。

 ならば余計な戦いをせずに、敗北を認めること。きっと兄ならそうして、彼女を説得するのだろう。自分はそれを見ているだけになるのか、あるいは協力するのか、それはもう一人の――彼の答え次第になるが、おそらく彼だって気持ちは同じはず。

 だからこそ、自分たちに求められる作戦はたった一つ。彼女の――ルーンカの考えを上回るような、奇策とも言うべき一度きりの作戦。

 成功しても、失敗しても、二度と通じない作戦でいい。どの道戦いは一度きり。勝っても負けても、国の、自分たちのこれからを決める戦いは、次の一度だけなのだ。

「予想を上回る、か……」

「ここまで全て読まれていたのに、急にやるのは大変ですね」

 シララスの呟きに、自然とクゥラが答える。たったそれだけで、二人は自分たちの考えが一致しているのを理解した。本来であれば、ユーヒという将のことも考えなくてはならないのだが、そちらはカザミが引きつけると言っている。ならば、万が一も存在しないはずだ。

「最初から二人並んで攻めても、だめだよな?」

「ルーンカさんの前に到着した頃には、私もシララスさんも疲弊して、勝負はすぐに決まるでしょうね。それに、ユーヒさんを引きつけるカザミさんへの負担も大きすぎます」

「そうだよな。カザミさんなら、引き受けてくれそうだけど」

 だからといって自分たちが負けるとわかっている作戦を提案はできない。あちらも偵察はしているから、二人が揃っている時点で戦力は集中される。チカヒミの一般将は全て彼女のシンペイだった。その全てと戦って勝てるほど、自分たちの力は高くない。

「ですから、私たちは別々に攻めるしかないのです。ココカゼとマコミズの、二方向から」

「ふむ……それなら、ココカゼとカカミでもいいんじゃないか? 近ければ、互いの状況も確認しやすい」

「シララスさんの見立てでは、それで勝てますか?」

 問われてシララスは考える。味方の状況を確認しやすいということは、敵にもこちらの状況をまとめて確認できるということ。ルーンカの能力を考えると、答えはすぐに出た。

「勝てないな。じゃあ、ココカゼかマコミズにルーンカを引きつけるか?」

「そうですね。あの場所に伝えに行く際、一騎打ちを所望でもすれば、彼女はきっと乗ってくれるでしょう。ただ、その程度では……」

「心橋を使って合流する気なのは、その時点でわかる。対策もし放題だな」

「これで勝てますか?」

「絶対に勝てない」

 今度は即答する。作戦を完全に読まれた上で、力で予想を上回るのは無理だ。

「ルーンカさんが知らない……あるいは、知っていても想定はできない方法。それがあるとすれば……いえ、確かにあるのですが」

「あるのか?」

 シララスは純粋な疑問をぶつける。ここまでは彼もクゥラの考えに追いつけたが、今の彼女が何を考えているのかは考えてもわからなかった。

「はい。こればかりは、私の気持ちだけではどうにもならないのですが、シララスさんも同じ気持ちであるのなら。ただ、その……そうですね、別に互いの気持ちが同じである必要もないですから、それでもやはりシララスさんの気持ちは重要です」

「うん?」

 よくわからないといった顔で、シララスは隣のクゥラを見つめる。彼女は黙って視線を返し、静かに口を開いた。

「シララスさんは、私のことをどう思っていますか?」

「どう? 互いに認め合い高め合う女の子、だと俺は思ってる」

 実際にクゥラに認められているかどうかは自信がないけど、という気持ちは表情に出すだけに留める。

「ええ、私にもその気持ちはあります。そもそも、私の気持ちだって曖昧なもので、とても口にすることなどできないのですが、まあシララスさんなら気付かないからいいでしょう」

「……ん?」

 クゥラがほんの少し呆れた顔をしたような気がする。気のせいかもしれない。ただ、どこか幼馴染みを思い出すような対応をされたことに、シララスは不思議に思った。

「私はシララスさんを信頼しています。シララスさんも、同じ気持ちですね?」

「ああ。そうじゃなきゃ、こうやって相談しようなんて思わないだろ?」

「でしたら、問題はないはずです。正直、戦いが終わったあとのことを考えると、色々と心配もありますが……それについては、シララスさんにも引き受けてもらえますし」

 クゥラは微笑んでいた。先程からの変化に、シララスは全くついていけていない。

「信頼、信頼か……国を代表する、心生みと、真者……クゥラ、もしかして」

 しかし彼女が何を求めているのかは、何となくわかった気がする。

「そうです。ですがこれには、国は関係ありません。シララスさんも、ヒミリクさんから聞いたことくらいはあるのでは?」

「ええと……ちょっと待ってくれ」

 ちょっとと言うには少しばかり長い時間を待たせて、シララスは思い出した。

「確かに、そんなことも言っていたな。俺からは深く尋ねなかったけど、シズスクが詳しく聞いていたから覚えてる」

「そうですか。まあ、理解しているなら話は早いです。……待っている間に話した方が、早かった気もしますが」

「ごめんなさい」

「いえ、謝るほどのことでは。それに、複雑なことをやるわけでもないのですよ?」

「ああ、そうだよな。確か、必要なのは……」

 そこまでも一緒に思い出していたが、シララスは念のためにクゥラに確認する。彼女が頷いて、間違いがないことを確かめてから、シララスはクゥラに向き直る。クゥラも同じく、シララスに向き直った。

「言葉に意味はない。ただ、必要なのは……」

「互いの心を真に通い合わせること。神に誓うように、ただその名を」

 告げる。

「シキライラハスク――ココカゼの心生み、その名とともに」

「クゥラェリーリット――マコミズの真者、その名とともに」

 口を揃えて、ただその一言を。

「末永き同盟を」

 告げた。


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