「夜に女の子と二人きりでお出かけなんて、母君が許してもこの姉が許さないよの」
調査当日、浴衣と茜とオルハは湯木原家に集合。出発してすぐ、玄関を開けた先で待っていたのは魔衣だった。
「ええと」
「うむ。冗談よの。母君より、話を聞いての。忘れたかの? 私は修行の一環で七不思議を調べておる。だから同行するだけよの」
「初めまして、お姉さん。弟さんと親しくなりたい、緋色茜です。緋色の研究の緋色に、茜の茜!」
「うむ、親しくなりたいのは私も同じよの。知っておろうが、名乗りは礼儀よな。馬を狩る、魔の衣――馬狩魔衣よな」
茜と魔衣が自己紹介を終えたところで、浴衣と魔衣を交互に見ていた織羽が口を開いた。
「ゆかたんとは幼馴染みで、とっても親しい仲の金藤織羽です。3八金に藤井システム。羽織を逆さに、金藤織羽。えへへ」
腕に抱きついてきた織羽に、浴衣は彼女が迷っていた理由を理解する。
「ほう。言い忘れておったが、二人のことは母君より聞いておるぞ。未来人の茜に、弟の未来のお嫁さんを狙う織羽かの」
「やだ、そんなことないですよ。ね、ゆかたん?」
「俺に聞かれても」
魔姫にはまだ、織羽が異銀河人であることは話していない。話す必要がないからと、今日集まったときもオルハは織羽だった。
「今の織羽ちゃんなら、もしかして」
「何かしたら、砕き潰しますよ?」
「ちえー」
話し方は変わっても、茜への織羽の態度は変わらなかった。
「ほほう、なかなか面白いことを言うよの。二人とも幸せにするがよいぞ弟や」
「二股を推奨されても」
「私たちの父君と、二人の母君のような関係なら問題なかろうの」
「いや、それもそれで」
浴衣は答えつつ、無言で話を聞いていた茜と織羽の顔を確認する。二人とも、表情はさほど変えずに黙っているだけで、大きな反応がないことしか浴衣にはわからない。
四人が最初に向かうのは、図書美術博物館から三分の距離にある握清コンサートホール。二十年前に完成し、小規模ながら優れた設備を持つコンサートホール。だが、完成して三年後には魂流図書美術博物館の建設が始まり、魂流市にとっても、握清町にとっても、話題のトップに君臨していたのはたったの三年であった。
それを恨んで、夜に歌われるという客引きの歌。歌っているのはホールの精との話だが、何もない夜にコンサートホールを訪れる理由はなく、長く暮らす浴衣と織羽はその歌を聞いたことはなかった。当然、来たばかりの茜も同じである。
「その歌なら、私は聞いたことがあるよの」
歩きながら魔衣の口から出てきた言葉に、三人の視線が集まる。彼女の立ち位置は、茜や織羽がいる方向とは反対側の、浴衣の隣。
「そうなの?」
近くにいた浴衣が、魔衣に聞き返す。
「そうよの。浴衣に七不思議の情報を教えてから、七不思議の六つについては情報を得て一人で調べておったよの」
「七つ目は?」
「私は知らぬが、弟たちは知っておろう?」
確認したところ、魔衣が知らなかったのは「聖地アクセイ」に関するものだった。
「ほう。それは時間がかりそうよの」
「歌って、どんな声だったんだ?」
「ゆかたん、打ち解けてるなあ……」
「羨ましいオルハちゃん?」
「……んー、何か気になる聞き方だね、茜ちゃん?」
左の方でされている会話には関わらずに、浴衣は姉弟二人の会話に集中する。
「そうよな。彼の者が歌いしものは、普通の言語ではなかったよの。聞き知らぬ異国の言葉らしきものであれば、ホールの精というのも事実やも知れぬよの」
「でも」
「わかっておろうの。私も聞き知らぬ言葉は多いよの。浴衣は詳しいかの?」
「俺も詳しくない。織羽と茜は?」
先程の話を続けていた二人に割り込んで、浴衣は質問する。
「聞けばわかるかもしれな……わかると思うよ、ゆかたん」
「地球上の言葉なら、お任せあれだよ。古代語までは詳しくないけどね」
「今の時代の言葉は?」
「こうして言葉が通じてるから、心配ないよ。古代語にしても、文明の記録が残ってるものなら、大体わかるから」
「凄いんだな」
「凄くないと、未来からここまでやってこれないでしょ?」
浴衣からの感心の言葉に、茜は笑顔で答える。慣れた答えのようで、その笑顔は作り笑顔ではなく本物の笑顔。
「そうやって褒められるの、久しぶりで気持ちいいね」
「ふふ、仲が良くて楽しそうよの。……さて、ついたかの」
そうこうしているうちに、目的地の握清コンサートホールへ到着。耳を澄ませてみるが、今のところ七不思議の歌声は聞こえない。
「傍に行ってみようかの」
魔衣の言葉に浴衣たちは頷いて、彼女についていく。ホールの傍まで歩いていき、しばらく待ってから周囲をぐるりと回り始める。雲のない空に月が輝き、薄い光に照らされた夜のコンサートホールは静かに佇むだけで、しばらくは音も声も響くことはなかった。
その音が聞こえ始めたのは、そろそろ一周が終わるかと思われた頃。その直前、魔衣の表情のほんの少しの変化を、近くにいた浴衣は見逃さなかった。
「これが?」
だから、その音に一番に気付いたのが彼であるのも当然だった。もっとも、口に出さないだけで魔衣もほぼ同じタイミングで気付いていたのだが、それも含めて浴衣は理解している。だからこそ、すかさず魔衣に尋ねたのである。
「よの。私が耳にした……」
短い言葉で答えた魔衣の言葉は、途中で彼女自身によって止められた。
響いた音は次第に声となり、声は間もなく音色に変化する。日本語ではない、そして英語やドイツ語といった比較的耳にする機会のある、有名な外国語でもない。ただ、コンサートホールに人を呼び寄せようとしてる――客引きの歌であるとは誰もがわかる旋律。
その歌は一分ほど彼らの鼓膜を揺らし続けていたが、最後は段々と音が弱まっていき、声となって消えていった。
「聴いたかの?」
「もちろん」
「はい」
「……ん」
魔衣の言葉に浴衣と織羽ははっきり答え、茜は最低限の言葉を口にして頷く。分析しているのは表情や声音からも明らかで、他の三人も無言で考える時間にする。
そのまま五分ほど。再び先程の歌が聴こえてくることはなく、茜が口を開いたことで、四人の間に流れていた沈黙の時間は終了した。
「私が知ってる言葉じゃないよ。地球上の言葉なのかな?」
茜に視線を向けられた織羽が、異銀河人としての知識をもって首を横に振る。
「私もわからないなあ。ごめんねゆかたん」
茜と織羽、二人の答えに見せた浴衣の表情を見て、魔衣が言った。
「二人の知識量はわからぬが、愛する弟は信頼に値しようぞ。つまり、地球上の人間が使う言語ではない、ということよの」
「魔衣さんは聞かないの?」
浴衣が疑問を口にする。茜はともかく織羽のことは、自分への信頼だけでは足りないのではないか。そもそもその信頼が慣れないことは、そのうち慣れるだろうと聞かなかった。
「今は聞かぬぞ弟や。恋人報告のときに聞いても遅くないよの」
「ゆかたんとはそんなんじゃないですよー、えへへー」
そう言いながらも、ぎゅっと浴衣の腕に抱きついてくる織羽。本当にそんなんじゃないことは浴衣も理解しているが、腕に当たる柔らかい感触にはいつもの幼馴染みを感じる。
こっちはまだ慣れないなと、慣れることの多さに浴衣は心の中で苦笑したが、いずれ慣れてしまうのだろうという予感もあった。ここまでじゃなくても、出会った日から幼馴染みの変化は何度も見てきたのだ。
「じゃあ、やっぱり人間以外の?」
言ったのは茜だ。真剣な表情で、真面目に問いかける。
「そうよの。噂通りにホールの精、あるいは……」
ふっと魔衣の視線が動く。気付いた浴衣たちがその視線の先を追うと、そこには一人の少女の姿があった。ホールから遠く離れた草むらを、薄着で歩くロングツインテールの女の子。
「あの娘の声やもしれぬよな」
「遠すぎる……うん?」
歌が聞こえた方向ははっきりわからなかったが、あんなに遠くからではなかった。考えている間に移動した可能性もあるが、魔衣が見ていたのはその間ずっと、浴衣の視界に入っていた場所。暗くて見落としたのでなければ、少女は突然現れたことになる。
そしてもう一つ。小学生か中学生くらいの、ロングツインテールの女の子。その姿には浴衣も見覚えがあった。視線を向けると、織羽も同意を示して大きく頷く。
「こんな時間に子供が一人で、何してるんだろうねゆかたん?」
「こんな時間だから、俺達と同じ目的とも考えられるけど」
それにしても気になるのは、彼女の姿に見覚えがあったから。その感覚は茜と魔衣には共感できなかったが、二人ともその女の子の姿は目に焼きつけていた。
そのままの足で、四人が次に向かうのは魂流図書美術博物館。握清高校の敷地内で見られるのは、午前二時。遅い時間でまだまだ余裕があるので、それまでに広場の彫像について改めて調べてみるのは予定のうちだった。
問題はどうやって忍び込むか……であったが、夜間でも広場は開放されていて、特に警備もされている様子はなかった。
月夜の下で輝く図書美術博物館はどこか幻想的で、広場の中央にある彫像はそれよりもっと美しく、幻想的な空間の中心となって月光を反射していた。
とはいえここは図書美術博物館。広場の中央にある彫像は美術品。それ自体は決して不思議なものではない。
「意外と簡単に入れたね。知ってた?」
「いや、俺も夜に来るのは初めてだ」
「私は……空からならちょっとだけ?」
「奇遇よの。その後、墜落しかけたときは怪我を覚悟したものぞ」
(共感した!)
思わぬところでの二人の共感に、浴衣は驚いて交互に二人を視線で捉える。
「私はそういうのは苦手での。織羽は、どうやったのかの?」
「あー、ええと、うーん……ま、いずれ話さないといけないから、話しますね」
織羽は迷いながらも、魔衣をベンチに誘って自らが異銀河人であること、それから未確認飛行物体が彼女たちの乗り物であることを話した。彼女の言う通り、七不思議を調べるのであればいずれは話さないといけないこと。UFOも魔衣が調べる七不思議の一つなのだから。
「ほう。思わぬところで一つは解明されたよの。助かったぞ、オルハよ」
「いえいえ、ゆかたんのお姉様なら当然ですよー。大事な幼馴染みですから。ところで、楽な話し方にしてもいいですか?」
「好きにするがいいよの。私をまいたんと呼ぶことも許そうぞ」
「あ、それはだめ。私が呼ぶのはゆかたんだけ」
「愛されておるの弟よ」
「はいはい、それより調べようまいたん」
「むう……弟にはお姉様が嬉しいよの」
「あ、慣れてきた浴衣くん」
茜の言葉に、浴衣は小さく肩をすくめて答える。魔女というのは未だによくわかっていないけれど、母親も魔女の一家で自分もその血を引いているという。それに、劇的な出会いも三度目だ。後半の方が慣れやすく、順応しやすいのも自然な反応である。
調べるといっても、彫像を壊すわけにもいかないし、強く叩くのもいけない。軽く触って眺めて、怪しいところがあれば軽く叩いてみる。遺跡発掘のような慎重な調査を行う。
昼間と同じように周囲を調べたところで、夜間だからこそできる方法でさらに調べる。
「よ、っと。織羽、大丈夫か?」
「はい。重くない、ゆかたん?」
浴衣がオルハを肩車して、彫像の上部を観察する。茜は魔衣に魔法で空から調べられないかと尋ねていたが、魔衣は首を横に振った。浮遊や飛行は魔衣が不得手とする種類の魔法。至近距離での慎重な調査を補助するのは難しい。
「しっかりお願いします」
「うむ。任せるよの」
ということで、スカートの中から取り出した脚立のようなものに登って、茜は上から彫像を調べていた。魔衣が両手でしっかり支え、高さは肩車オルハより一メートルは高い。広場中央の彫像は台座含め数メートルの高さがあるため、複数の高さから調べる必要がある。
「その脚立も、君の発明なのか?」
突然スカートの中から出てきた大きなものに、浴衣はやや驚きながらも冷静に尋ねる。
「設計と製作はしたけど、発明はしてないよ。悪の秘密組織は多少の製作修理ができないと困るからね。支えるのは一人でも、安定性と高さを兼ね揃えたいい脚立だよ」
「それにしても、不思議なスカートよの」
脚立を支えながら、茜を見上げて魔衣が言った。
「その割には、あまり驚いてなかったようだけど」
脚立の出現に視線こそ集中したものの、魔衣は浴衣ほど驚いた様子は見せなかった。オルハにしては、当たり前のように眺めていたくらいだ。
「母君から話は聞いておったよの。しかし、ここから見ても普通のスカートにしか見えぬは、なかなかに興味深いものよな」
「仕掛けもない?」
「下着と肌しか見えぬよの」
オルハに指示されて、浴衣は少し左に動いた。
「浴衣くんったら、女の子のスカートの中がそんなに気になる?」
「……ゆかたん」
茜の楽しげな声に、オルハの訝しむような声が重なる。
「織羽?」
この流れで彼女が誤解するはずはない。意外な反応に浴衣の口から疑問が出る。
「一応、私もスカ……ん」
オルハは途中まで言いかけて、言葉を止める。今自分が何を言おうとしていたのか、なぜそんなことを口走ろうとしたのか、気持ちの整理がつかないままに。
「ほほう。これは面白い展開よの」
「何が?」
くすりと笑った魔衣に浴衣が反射的に聞き返すと、魔衣は笑みを深めて問いに答えた。
「ふむ。ならば言おうぞ。浴衣は今、オルハの柔肌にしっかり触れて肩車をしているよの。幼馴染みとはいえ、大胆よな」
「これは調査のため。ゆかたんに変なこと意識させないで」
浴衣が何かを返す前に、敏感にオルハが反応する。
「それもそうよの。して、調査はどうかの?」
「こっちは何もないよー」
「こちらも」
話題の切り替えに茜が答え、オルハもすぐに追いかける。そして肩車からオルハが、脚立から茜が降りて、この時間の彫像調べは終了した。
午前一時三十分。魂流市立握清高校。四人は次の目的地に到着して、深夜二時頃に起こるという現象に備えて待機していた。証言によると、現れる時間は約十五分。現れる範囲は握清高校の敷地内。短さと広さを考えると、確実に確認するためには準備時間も必要だ。
淡く明るい小さな光。視認するには十分な明るさだが、写真には写らず記録は残らない。それこそが七不思議として広まった大きな理由であり、その対処が大事である。
相談した結果、四人はそれぞれ別の場所で待機して、観察することになった。浴衣はグラウンドの端から、茜は四階建て校舎の屋上から、オルハは正門前から、魔衣は近くの小さな山の山頂から敷地全体を見下ろして。
死角もあるが、光もずっと同じ場所に浮かんでいるわけではない。連絡手段は魔衣が四人に施した簡単な魔法と、補助として茜が手旗で、下方で動きやすい浴衣とオルハに伝える。より早く複数に伝える最適な手段と、もしもの場合の別の手段。携帯電話は未来からやってきた茜と、巫女魔法修行中の魔衣が持っていないので、浴衣とオルハだけが使う補助の補助だ。
午前一時五十五分。深夜二時頃、それぞれの場所で待機する四人に緊張が走る。
午前一時五十八分。握清高校の敷地内、グラウンドの中央に光が浮かびあがった。淡く明るい小さな光が高く浮かび、飛翔して校舎の上を駆け抜けていく。
輝く星の下で、淡く輝く小さな光。速度は速くなったり、遅くなったり、軌道も直線だったり曲線だったり、様々な動きをして、光は舞い続ける。
午前二時十五分。淡く明るい小さな光は、グラウンドの土に吸い込まれるようにして消えていった。
用意していた連絡手段は、ほとんど使われることはなかった。それほどまでに光は高校の敷地内を縦横無尽に飛び回り、四人の視界に入っては消え、彼らは細かく連絡をとっていられないほど観察に集中していた。
十数分後。一番最後に戻ってきた魔衣が合流したところで、四人は情報の交換と検討を始める。まず行ったのは、光の動きの整理だ。
「ふむ。完全に敷地内からは出ていないようよの」
「校舎は貫通してたよな?」
「はい。何度も」
浴衣の確認にオルハが答える。校舎が広く視界に入っていたのはこの二人だ。
「規則性はなかったよ。ですよね?」
「そうよな。私たちの存在も気にしていない様子ぞ」
こちらは茜と魔衣が確認。光の動きを整理したところで、次に探るのはその正体だ。魔衣は三人の顔を順番に見ただけで、小さく頷いてみせた。
「どうやら誰もわからぬようよの。ならば、次の場所に向かおうぞ。断崖までは遠かろう?」
魔衣の提案に三人は頷いて、早速次の場所へ移動することにした。
移動の途中、茜が出した手旗について浴衣が尋ねたところ、湯木原の家から持ってきたものと判明した。もしものときのために、その他にも彼女は色々と持ち込んできたらしい。もちろん魔姫から許可はとっていて、無断で持ち出した物は一つもない。
彼らが断崖に到着したのは、それから約一時間後。時刻は午前三時を過ぎ、もうそろそろ日の出の時間だ。待っている間に空は白み始め、早朝の涼しい空気が彼らの頬を撫でる。
「ふむ……」
四人はそれぞれ注意深く観察していたが、しばらく待っても氷はどこにも現れなかった。
「日の出よの」
魔衣が呟く。視線が向くのは山の方角。西の海に太陽は昇らない。そして、その位置から東の山に昇る太陽が見えるということは、結構な時間が経過したことを表していた。
その後もはっきり太陽が昇るまで彼らは待ったが、結局七不思議とされる現象は確認できなかった。
「浴衣くん、女の子と朝帰りだね。えっち」
「帰りも徒歩は疲れるな」
「呼ぶ?」
「是非頼むよの」
「ああ、呼べるのか」
どうやって連絡したのかはわからなかったが、何らかの手段で呼び出された未確認飛行物体に乗って、浴衣たちは徒歩一時間以上の距離をあっという間に移動する。
UFOの中身は柔らかい布張りの空間で、快適なソファーに座って感触を楽しむ。かなりの速度のはずなのに、空間自体が衝撃を吸収するそうで、中では自由に動けるらしい。宇宙船のような無機質な内装を想定していた浴衣には意外だったが、
「快適さを重視できるほど、私たちの文明は進歩していた」
というオルハの説明に、すぐに納得するのだった。
「浴衣くん、女の子と密室で何するの。えっち」
「言っておくけど、疲れてるから突っ込む気力はないぞ」
「ほう。突っ込むとは……何を突っ込むのか気になるよの弟や」
「ゆかたんのえっちー。でも、ゆかたんがしたいならいいよ? 五分で終わる?」
「んー。どうだろうな」
深夜から早朝にかけて、長く行動した四人。七不思議を調べたことで気分が昂揚している茜と魔衣に、気のない態度で対応する浴衣。オルハは疲れから演技と素が混じっていた。
最後の氷の精こそ確認できなかったが、他の二つは無事に確認できた。それだけでも今日の成果は上々だろう。彫像の下の秘密基地も含め、詳細はこれから調べていけばいい。多少の知識ですぐに解明できるのなら、七不思議は七不思議として広まらないのである。
帰宅してベッドに潜り込んだ浴衣は、今日確認した未確認飛行物体はこれから何と呼べばいいのだろうと、そんなことを考えながら眠りについたのだった。