第五節 時風〈ときかぜ〉(二)

一章 少女に繋がる島での出会い


 彼女が島に研究滞留して400日が経ちました。季節は二度目の時風を迎え、彼女は季節の始まりに、「今日は外で研究をする」と、イセカに言い残して、洞窟の外へ向かいました。

 これまでも何度もあったことです。イセカは頷いて、彼も洞窟の中で自身の研究を進めていました。翌朝になってもサーワは帰ってきませんでしたが、その日もイセカは洞窟内で研究に没頭していました。食事も部屋に持ち込んでの、深い研究の途中だったのです。

 彼がそれに気付いたのは、サーワが外出してから二日後のことでした。彼女にしては珍しいことどころか、初めてのことです。しかし、彼女も彼と同じ研究者です。何か興味深い研究対象を見つけて、予定が変わることに不思議はありませんでした。

 しかしそれが、三日、五日、十日と続くと、同じ研究者であるイセカでも心配になってきました。この島は、竜獣の暮らす危険な島です。彼女の身に何かあったのではないか、と考えるには十分でした。

 まず彼が訪れたのは、森林に暮らしているドーギとコーネの家です。

「よく十日も待ったわね。ま、天才の思考はわからないから、確かに五日程度じゃ不思議ではないでしょうけど、それで?」

 建物にいたのはコーネだけでした。コーネによるとドーギは近くの警邏をしていて、そのうち戻るとのことです。

「君はサーワの行き先を知らないかな?」

「さあ、出かけるときに話はしたけど、森林の外へ向かったことくらいしか知らないわ。そうね、確か方角は北か東だったと思うけれど、ロクシチを避ける必要もあるわけだし、断定はできないわ」

「西や南の可能性もあるってことかい?」

「南に行って、何があるかは知らないけれどね。推測はやめておくわ」

 柱と屋根だけの建物の下で、コーネは両手両足を地面につけて色々動いています。戦闘技術の研究をしている彼女を視界に入れながら、イセカはドーギが戻ってくるのを待ちました。

「此方の話は理解した。我が輩も見かけただけだが、サーワが森林を出たのは北東の方角で間違いない。そこからどこへ向かったのかまでは、森林の中からは見えなかった」

「北東だね。とすると、次の行き先は高山か、遺跡か、それとも……」

 その先には岩山もあり、草原や湖にも繋がっています。これだけの情報ではイセカにサーワの行き先は断定できませんが、西の方面が消えただけでも収穫です。

「探しに行くなら、気を付けよ」

「あなた一人でどこまで行くつもりか知らないけれど、戦いが必要なら私も協力するわよ。ちょうど試したいこともあるのだけど……」

「ありがたい申し出だけど、時間はかけられないからね。竜獣からは全力で隠れて逃げるつもりだから、お断りするよ」

「……そう。残念ね」

 代わりの相手を考えているのか、動きを止めて、再び緩やかに動き出したコーネを背に、イセカは次の場所へと向かいました。

 二番目にイセカが訪れたのは、草原を抜けた先の桟橋に係留された大きな船です。

 リアもすっかり低くなり、落ちかけた空にはイクが顔を見せ始めています。サーワがどこへ向かったのかはわかりませんが、海の先へは行っていないだろうと、イセカは島の端までやってきました。

「あ、イセカだ! どうしたの? スーイにごよう?」

 桟橋に到着すると、船の甲板を駆けていたスーイに声をかけられます。イセカはタラップから船に乗ると、スーイにサーワの居場所とムークの居場所を尋ねました。

「こんにちは。サーワを知らないかな? 知らなければ、ムークを呼んできてほしいんだ」

「サーワ? あのひとなら、スーイもしってるけど……」

「最後に会ったのはいつの日かな?」

「さいご? えーと……んーと……おとといより、もっとまえだとおもうよ」

「十日よりは新しいかい?」

「うん。そんなにまえじゃないよ。サーワ、いないの?」

 スーイの質問に、イセカは大きく頷きます。それから、念のためにとムークの話も聞いておくことにしました。タラップの傍で、スーイが彼女を呼んでくるのをイセカは待ちます。

「あいにく、自分も詳しい日付は覚えていません。彼女は自分たちに会いに来たわけではないですから。草原を横切るのを、船の近くから見ていただけです」

「そうなると、行き先は……」

「はい。貴方の想像通りで合っていると思います。ここに来るまでスーイと確認しておきました。サーワは草原を横切って、南の方角に向かいました」

 ムークが指さした方角を、イセカは視線で追います。草原の東から、草原を抜けて、南へと動いていく指先がサーワの辿った道を示しています。

「ありがとう。急いで行くとするよ」

 これから空は暗くなっていきますが、暗闇の中の方が草原では竜獣の目を避けやすくなります。ここまでも決してゆっくり歩いてきたわけではないので、イセカにも少しばかりの疲労はありますが、サーワを追うにはここで休んでいる暇はありません。

 マクガラを避けつつ草原を抜けると、イセカの視界には湖が入ってきます。イクの浮かぶ空ではその先の高い山までははっきりと見えませんが、イクの輝きを反射する湖は闇の中でも多少は目立ちます。

 時間も考えると、湖の傍には人がいないと思っていたイセカですが、湖のほとりの大きな家ではない場所に見えた光に驚きます。

「たいまつ? ……いや、別の光かな?」

 何の光かは判然としませんが、二つ以上の光が湖の傍に見えています。強い光ではありませんが、どうやら湖面が反射していたのは、イクの輝きだけではなかったようです。

 近付いていくと、二人の人影が目に入ってきます。ターユとフーニの二人だと判別するにはもう少し近付く必要がありましたが、それより先に気付いた彼女たちが声を遠くに飛ばしてきました。

「誰だか知らないが、湖には入らないでくれ! 夜にしかできないこともあるんだ!」

 声をかけてきたターユは湖に視線を注いでいます。フーニはイセカの方に視線を向けて、姉より先にやってきた人物の正体にも気付きました。

 イセカが遠くからも見えるように大げさに頷くと、フーニは笑って小さく頷きます。その表情までは、明かりがあるとはいえ伝わりませんが、頷き返したことは伝わります。

「ああ、イセカ。君か。用件は察しているが、少し待ってもらえるかな?」

「うん。二人ともかい?」

「ええ。わたくしも少しやることがあるので、姉様」

「ああ、イセカはそこの明かりのところで待っていてくれ」

 ターユが振り向いて指さした場所で、イセカは二人のしていることが終わるのを待ちます。新しい発明芸術作品に関係するものだとは思いますが、見ているだけでは何をしているのかはわかりません。ただ、近くの明かりが白円錐に近いものであることは理解できました。

 湖の反射する輝きは徐々に弱まっていき、イセカの傍にあった光も輝きを失っていきます。それに反して、湖自体が光を放っているようにも感じられますが、イセカがそう感じられたのはほんの僅かな間でした。

「サーワなら一度あたしたちのところを訪れたよ。そこで改めて色々聞かれた、白円錐の扱いについて」

 その声が直後に聞こえたので、イセカは少し反応が遅れました。しかし、耳にした言葉の内容は理解しています。

「具体的には?」

「全ての機能の再確認だ。必要があれば改良か、別の発明芸術作品も借りたいと言っていた。それから、他にも何か聞いた気はする。フーニなら覚えているかな?」

「サーワさんなら、川を見に行くと言っていました」

「川と言うと、やっぱり?」

「ええ。でもそれだけではなく、こちらの湖に流れる小さな川も見てから、広い川も見てくると言っていました。姉様、地図はありますか?」

「家に戻れば、もちろんあるさ。イセカ、君も今日はもう動かないだろう? 一緒に休むといい」

 ターユとフーニの視線が、同時にイセカを見つめます。二人の視線にイセカは大きく頷いて、明日のために体をきちんと休めることにしました。

 その前に、湖のほとりの大きな家で地図を確認しておきます。手書きの地図で全ては載っていませんでしたが、高い山に流れる川と、低い山に流れる広い川といくつかの川は記載されていました。

 翌朝までに用意された地図の写しを手に、イセカは川を目指したサーワを追いかけることにします。途中で洞窟に寄って休むかどうかは、高山の川を調べてから考えることにしました。

 かつてはサーワと二人で登った高い山を、今日のイセカは一人で登ります。この高い山はサーワにも未知の場所が多いらしく、手元にある地図にも未記載の場所ばかりです。竜獣だけでなく、単純に単独登山というだけでも危険が伴うため、イセカは慎重に地図の道から外れないように山を歩き続けます。

 高い山に流れる川はとても細いもので、それらがいくつも集まって湖に流れています。目に見える川だけではなく、多くの地下水も含まれていますが、それらの水源までは地図には載っていませんでした。

 イセカにはサーワの目的はわかりません。だから、川を見つけても特に調べることなく周囲に人の姿や人がいた形跡がないかを確かめるに留めます。

 高山にはサーワのいた形跡は残っていませんでした。彼女もきっとここを訪れたのでしょうが、ここで長く休んだわけではないようです。イセカは高山の高いところから眼下に広がる森林を見つめて、再び地図を片手に山を進んできます。

 下山は登山よりは幾分か楽ですが、竜獣がどこにいるとも知れないので気は抜けません。途中、遠くにタメダメの姿も目にしましたが、岩陰に隠れてどうにかやり過ごします。

 それから、山を下りては森林へ駆け抜け、森林内ではロクシチの気配を探りつつ洞窟に戻ります。山越えを終えたイセカは一日ここで休むことにします。タメダメとロクシチの回避に多くの時間をとられたため、リアは空に浮かんでいますが疲労が溜まっています。

 翌朝、イセカは低い山を流れる広い川の下流から、ゆっくりと山を登っていきます。地図がなければ迷いそうな河口への道のりでしたが、幸い地図があるので最短の道を進めます。

 しばらく歩き続けると、バージとヒーラの家が見えてきました。彼女も同じ道を辿り、洞窟に寄らなかったとすれば、ここに寄っているかもしれないとイセカは考えます。

「ボクは見てないけど、兄さんを呼ぶ?」

 家の前で珍しく川に釣り糸を垂らしていたヒーラに尋ねると、返ってきたのはそんな答えでした。

「家にいるなら呼んでくれるかい?」

「うん。あ、その間、釣り竿を見ててもらえるかな? 釣れないとは思うけど、魚を逃すと兄さんが、『なら俺が取り返す!』って、すぐ釣りに出かけちゃうから」

 苦笑するヒーラと、かなり似ていた声真似に驚きながら、イセカは頷いて釣り竿を見ています。彼女の言葉通りに魚は釣れずに、代わりにバージがやってきました。

「サーワなら俺も見ていないが、誰かが川の周辺を探っていた痕跡があったのは、あいつの仕業だったんだな」

 ヒーラから話を聞いていたバージは、イセカの見ていた釣り竿がヒーラに渡されるのをしっかり目に入れながら答えます。

「そうなのかい?」

「ああ、お前、川の中までは見てないだろ? 罠を仕掛けるときに、そこを調べた痕跡がいくつか見つかったんだ。何を調べたかまではわからないが、ま、川釣りのためじゃないのは確かだな。上流の方では、アグラクとも争っていたみたいだぞ」

「その痕跡は?」

「俺が見たのは三日も前のことだし、痕跡から争いがあったのはそれより二日は前だ。俺でも見分けられる痕跡はもう残ってないな。アグラクの死骸はなかったから、激しい争いじゃあない」

「さすが、バージは詳しいんだね」

「兄さんは釣り場の知識だけは豊富だから。変化にもすぐ気付くんだ」

 釣り竿を引き上げて、釣れた小さな魚を捕獲しながら、ヒーラが兄への言葉に答えます。

「そんな俺に、サーワは聞きにもこなかったんだ」

「どこに行ったかは……考えるまでもなさそうだね?」

「うん。洞窟にも寄らずに、君たちにも会わずに、ここまで調べてきたとすると……白円錐を使っていないのだとすれば、場所はあそこしかないね」

 イセカは西の方に目を向けて、すぐさま次の場所へ出発します。ここで姿が見つからなければ寄る予定だった場所へ、急いで向かうことにします。

 イセカは不可視の領域へやってきました。一度見つかった場所でもサーワらこの世界の住人には見えないままですが、異世界からやってきたイセカには見えるままなのも変わりません。

「リーラーン! 聞きたいことがあるんだけど、いるかい?」

 用があるなら呼んでくれ、と以前彼あるいは彼女に言われた通りに、イセカは竜獣の暮らす島に住む果御神の名を呼びます。

「ああ、言っていなかったが、そんなに大きな声で呼ぶ必要はない。だが、少し待っていろ。ワタシにも優先したいことがある」

「了解」

 イセカは小声で返事をすると、リーラーンの言葉に従いその場で少し待っていました。そうすると遠くの景色が歪み、ほんの少しだけ不可視の領域が消えて可視化された領域がイセカの視界に入ります。

 小さな塔のような建物で、前に行った堅牢な城とは違う場所ですが、不可視の領域はとても広い場所です。崩れた城に隠れて見えなかった場所か、新たに建てられた塔かは、イセカにはわかりません。

 ただ、そこで待っていることは言葉がなくても伝わったため、イセカは不可視の領域内を歩いてその塔を目指します。

 小さな塔には小さな扉があり、イセカはその扉をノックします。すると扉は声もなく中から開けられ、扉の開いた場所にはリーラーンの姿はありませんでした。

「これは、自動ドアかな? つくづく不思議な人だね。いや、不思議な神かな?」

「神ではない。元神だ」

 その声は塔の中のどこかから聞こえてきました。その声にまたもイセカは同じことを思いますが、今度は言葉にはせずに直接訪ねます。

「どこにいるのかな? この広さだと、一番上に登ればいいのかい?」

「ああ、そうしてくれ。見晴らしはあまりよくないが、丁寧な階段はキサマが登った二つの山よりは格段に登り心地はよい」

「それはまた……」

 イセカはそこで言葉を止めて、代わりに足を進めます。確かに彼あるいは彼女の言葉通り、塔の最上階へと続く螺旋階段はとても登りやすいものでした。まるで平地や緩やかな坂を登っているくらいの感覚ですが、確かに階段であり順調に高さは上がっています。

 途中に見かけた扉には目もくれず、イセカはひたすら最上階を目指します。数分歩き続けて、到着したのは広い踊り場のような空間でした。四方に並んだ扉に、イセカは足を止めて、どの部屋にリーラーンがいるのか尋ねようとします。

「ああ、どこでも構わない。急ぎなのだろう? 早く入れ。もっとも、そこで一時間くらい悩んでいても、状況は変わらぬと思う」

 聞こえてきたリーラーンの言葉に、イセカは近くにあった扉を選んで中に入ります。扉の中には横に細長く部屋が広がっていて、端を見ると内側の壁が途切れていました。どうやら、扉の先は一つの部屋として繋がっていたようです。

 塔の外側には小さな窓がいくつも並んでいて、そこから見える範囲の景色には低い山の西側を含む島の低山より西側全てが含まれています。

 リーラーンの姿は、島の西の海を眺められる小窓の傍にありました。

「ワタシはここからよく景色を見ている。サーワならワタシに何かを尋ねてから、遺跡の方へ向かうと言っていた」

「僕のことも、ここから見ていたのかい?」

 振り向いたリーラーンの声に、イセカは疑問に思ったことを尋ねます。

「いや、ここはワタシの作った領域だ。侵入者は感じとることができる」

「島全部を見られるわけじゃないんだね」

「ワタシも万能ではない。やれなくもないが、相当の準備が必要だ」

「興味深いね。けれど、僕にはもっと聞きたいことがあるんだ。何を尋ねられたのか教えてくれるかい?」

「キサマに話してもよいが、キサマに理解できる知識ではないぞ?」

「それでも、とっかかりくらいにはなるはずだよ。教えてもらえるかな」

 イセカは自信なさげな笑みとともに、答えて頼みます。リーラーンはその表情に小さく肩をすくめてから、サーワに聞かれたことと話したことを一から繰り返してイセカに伝えました。

 それはリーラーンの言葉通りに、イセカには理解ができない知識です。しかしそれがこの世界に住んでいる者には理解できる知識であること、術気に関する知識も関わっていることだけは、異世界から来たイセカにも理解できます。

「それから、遺跡の深部についても尋ねられたが、ワタシもあそこは深くまで潜ったことはない。知らないと答えておいた」

 最後に、リーラーンはその言葉で話を終いにします。次のイセカの行き先は決まりましたが、長い話の間に外にはすっかりイクが天高くまで浮かんでいます。

 イセカはリーラーンに感謝の言葉を述べると、続けて一晩の宿を借りられないかと願いました。もちろん、それはリーラーンにとっても招いたときから予想の内です。彼あるいは彼女は快く承諾すると、塔の下階にある部屋で休むといい、とイセカを案内しました。

 不可視の領域を出たイセカは、海岸沿いを歩いて遺跡を目指します。ここからだと低い山をまっすぐに越えなくとも、島の端を歩いていった方が安全かつ迅速に遺跡に到着できます。なんたって、不可視の領域周辺には竜獣の姿がないのですから。

 低い山の最も低い部分を越えて、イセカは遺跡へと島の北から東進します。山を越えれば竜獣の姿も見え、厄介なハネオモもいますが、彼の領域まで到達すれば一人でも安全です。

 だからといって、早足になることはありません。今回の目的は遺跡に到着することではないのです。遺跡に到着してからの行動のため、今は体力も知力も気力も温存するべきです。

 上空には常に気を遣い、ずっと遠くの空に見えたハネオモに見つからないように気を付けながら、イセカは無事にビーダの領域に入ります。遺跡も見えていますが、まず探すべきはどこかにいるであろうビーダです。

 今日は、柱の上から話しかけてくることはありませんでした。ハネオモを待っているわけではないとすると、広い遺跡の地上部のどこかか、遺跡内のどこかにいるはずです。

「ビーダ! いるかい!」

 答えはすぐに返ってきませんでした。しかし、しばらく同じ言葉を叫びながら遺跡の中を歩いていると、遠くに人影が現れました。

 姿を見せたビーダはイセカに顔を向けると、向けられたイセカは大きく手を振ります。

「サーワが来ていないか? 僕は見ていないが、本当に来たんだな?」

 近付いて早速ビーダに尋ねると、返ってきたのはそんな答えでした。

「君の領域には入っていないってことかい?」

「少なくとも、お前が来たような通常の接近では、来ていないな。けど、僕だって領域の全てを把握しているわけじゃない。ハネオモや他の竜獣があまり来ない方角は、普段から見張っているわけではないさ」

「サーワがこっそり来た可能性はあるんだね。予想はできるかい?」

「彼女が何日前に来たのかがわかれば可能だけど、そうでなければ難しいな」

「その情報は僕も持っていないね。除外できる場所はどこになるのかな?」

 イセカの質問に、ビーダは普段から見張っているから気付かないはずがない場所と方角を、順番に挙げていきます。結果、見張られていない場所は全体の三割以上もあり、そこから迷わず遺跡の中にでも入られたら気付くのは難しい、ということがわかりました。

 そうなれば、イセカの次の行動は簡単です。

「だったら……」

「遺跡の中を調べたいなら、好きにするがいい。休みたいなら……まあ、どこでもいいから休むといい。手伝う気はないが、僕の就寝中に寝所を調べることでもしなければ、邪魔をすることもない」

「ありがとう。そうさせてもらうよ」

 イセカは笑顔で、快諾してくれたビーダに感謝します。それから、ビーダの普段の寝所を教えてもらってから、イセカは遺跡の内部の調査に乗り出すことにしました。


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