カゲカケラ

第二話 包み隠し


 茜との初めての訓練を終えた夜。緑は自室でベッドに腰を下ろしていた。今の時間は女の子たちがお風呂に入っている時間。施設のお風呂は大きいが、一つしかないので、男女に分かれて順番に入ることになっている。

 呼びに来るのを待ちながら、緑は今日の訓練内容について考えていた。茜との融和について少し気になることがあったのである。

 兄妹として初日から高い融和を達成した緑と茜であったが、その融和は他の二人との融和には及ばない。影の兵士と戦い、槍の領主を倒した実戦経験の差かと訓練中は思っていたが、改めて考えてみると何となく理由は他にあるような気がした。

 はっきりとはわからない、兄としての勘。それゆえに他の二人にはまだ話していないが、訓練の終わりに茜には伝えておいた。今夜、二人で話をしようと。

 再会を喜び語り合うためではないのは、茜も承知済み。離れ離れの十年間は第一訓練施設での十年間。趣味の自由は認められていたから、語り合うことがないわけではないが、それだけならわざわざ二人きりになる必要はないのである。

「わあ、大きなお風呂ですね」

 緑が考えていた頃、三人の少女たちは一緒にお風呂に入っていた。大きな浴槽は上等な木製素材で、洗い場にも自然の素材が使われている。シャワーや蛇口などには最新鋭の設備を揃えて、浴槽に溜まるのは島の近くの海底から湧く温泉。訓練を毎日滞りなく進め、影との戦いに万全の状態で挑むため、疲れを癒すために整えられた最上の環境だ。

「そうね。私たちには大きすぎるお風呂だったけど」

「こうして増えてみると、ちょうどいいかもね」

 早足で扉を開けた茜に続いて、織乃と水樹もお風呂場に入る。

「お兄ちゃんと一緒に入っても大丈夫ですね。今から呼びに……」

「それ、二人きりでお願いできる?」

「あはは、あたしもそうしてほしいな」

 踵を返そうとした茜を、二人の少女が足を止めて制止する。

「いつも別なんですか?」

 振り返ったついでに、小首を傾げて尋ねる茜。

「当たり前だよ」

「ま、時間がないなら一緒でも構わないけどね。今のところ、入浴直前に影に襲われたことはないわ」

「わかりました」

 茜はすぐに引き下がり、素早くお湯をかけてから浴槽に向かう。二人もそれに続いて、三人は揃ってお湯に浸かることにした。茜の右隣に水樹が並び、二人の正面、斜めに少し離れたところには織乃が入る。

「温泉……いいですよね」

「あたしたちは慣れたけど、気持ちいいよね」

「ええ。疲労回復は大事だもの」

 初めて浸かる茜は気持ちよさそうに温泉を堪能する。堪能し始めて一分ほど、茜は水樹と織乃の一点を交互に眺めていた。

「どこを見てるのかしら?」

「胸……おっぱい?」

 織乃の問いに、茜はぼんやりと答えを返す。湯船にぷかぷかと浮かぶ二つのものを、茜は眺め続けていた。

「で?」

「お兄ちゃんの好みはどっちなんでしょう」

「あたしたちに聞かれても……」

「まあ、知ってはいるけど」

 初めての休日。小さな湖で遊ぶ前に、その情報は得ている。織乃がそのことを告げると、茜は彼女の顔を見て、前のめりになって尋ねた。

「どっちですか? B、それともD?」

「な……なんで、あたしたちのサイズが」

「……そんなの、裸を生で見れば大体わかるでしょう」

 驚く水樹に、冷静に突っ込みを入れる織乃。水樹は「あ、そっか」とすぐに納得し、ついでに茜の質問にも答えを返す。

「お兄ちゃんは、妹の胸が一番だって言ってたよ」

「私の? やだ、お兄ちゃんったら……でも、だとすると近いのは……」

 兄の答えに照れながらも、視線を織乃の胸に向ける茜。

「そうね。成長込みと言っていたし……ま、どうでもいいけど」

 織乃の答えに、茜は視線を上げて彼女の顔を少し見てから、目を瞑って静かに温泉を楽しむことにした。彼女の目を見れば、その言葉が真実であることは誰にでもわかる。

 しばらくして、織乃が無言で腰を上げたのに続いて、水樹と茜も腰を上げる。浴槽から出る直前、茜は小さな声で言った。

「お兄ちゃんは、毎日お二人の入った後のお風呂に一人で……ふふ」

 最後の微笑の意味は当然、二人にもわかっていた。しかしどちらも声をかけることなく、話題は広げない。広げると恥ずかしい話になりそうだからという水樹と、興味がないから広めないだけの織乃。二人とも別々の理由で。

 ノックの音に緑はすぐに扉を開ける。お風呂に入る前の今、鍵をかける必要はない。

「お兄ちゃん、呼びにきたよ」

 現れたのはバスローブに身を包んだ妹、茜だった。妹が呼びにくることには驚かないが、気になったのは彼女の着ているのがパジャマやネグリジェといった寝巻きではないこと。

「どうしたんだ、その格好?」

「お話があるって言ってたでしょ? せっかくだから、お風呂で一緒に話そうと思って」

「そうか。のぼせないか?」

「大丈夫だよ」

 心配する兄に、茜は笑顔で答える。お風呂上りで上気した頬や肌、軽く眺めても判断はできないが、緑に可愛い妹を疑う理由はない。

「わかった。行こうか」

「うん。久しぶりだね、お兄ちゃん」

 廊下を並んで歩いて、お風呂に向かう兄妹。一緒に入った脱衣所には、ファンシーなパジャマと妹の下着が置いたままにされていた。

 衣服とバスローブを脱いで、兄妹はお風呂に入る。茜にとっては本日二回目の温泉だ。

「ねえ、お兄ちゃん」

 浴槽に浸かって、向かい合う兄を呼ぶ茜。

「お兄ちゃんは、私の胸が好きなの?」

「ああ……逃げようとして言ったことだけど、茜のことは好きだよ」

「そっか」

 緑が微笑んで答えて、茜も微笑む。少しの沈黙のあと、口を開いたのは緑だった。

「茜に聞きたいことがあるんだ」

「なあに、お兄ちゃん?」

 微笑みながら続けられる会話。少し真面目な話でも、緑はその笑みを崩さなかった。

「俺たちに何か、隠してることあるんじゃないか?」

「うん。あるけど……」

 緑の問いかけに、茜は素直に答えた。しかし、言葉はそれ以上続かない。

「言えないことか?」

「うーん……そう、かも? お兄ちゃん、驚くと思うから。明日なら……ううん、今夜にする!」

 何やら考えのまとまった様子の妹を、兄は微笑みながら黙って見つめていた。

「お兄ちゃん。指定した時間に、水樹さんの部屋に来てくれる? 織乃さんと一緒に」

「水樹の? 茜の部屋じゃなくて?」

 緑が聞いた。茜は苦笑いを浮かべて、それに答える。

「荷物は少ないけど、まだ片付けてないから。駄目?」

「わかった。時間は……」

「その前に、温泉だよっ!」

 そうして、兄妹は久々に一緒のお風呂の時間を楽しむ。緑が茜の頭を洗ったり、二人で背中を流し合ったりして、時間が経過していく。茜にとっては二度目のものもあるが、それでも困らないように、最初に入ったときにきちんと調整はしている。

 脱衣所で汗を拭き、二人が寝巻きを着ているとき、茜は指定の時間を兄に伝える。

「今から一時間。少し遅れてもいいけど、早いのはちょっと困っちゃうかな」

 その指定に緑も頷き、二人は少しゆっくりしてから廊下に出るのだった。

 真っ直ぐに水樹の部屋に向かう茜と、緑は並んで歩く。茜の部屋は緑の部屋の隣で、数部屋の空室を挟んで織乃の部屋、水樹の部屋と続く。緑の部屋の前を抜けて、茜の部屋の前で別れようと思った緑だったが、茜はそのまま真っ直ぐ歩き出したので彼もついていった。

 ついてくる兄を茜は不思議そうに見たが、彼が織乃の部屋を指差したことで、小さく頷いて納得を示す。

「……で、私の部屋で一時間待つの?」

「まずいかな?」

「構わないけど……そうね、一局、勝負でもする?」

 緑は織乃に迎えられて、彼女の部屋に入る。横目に見た妹も、水樹の部屋に無事に迎え入れられたようだ。

 そして指定の時間まで、緑と織乃は彼女の私物である将棋盤を挟んで向かい合い、真剣勝負をしながら時間を潰すのだった。

「いらっしゃい、茜ちゃん」

「えへへ、おじゃましまーす」

 茜にお話していいですかと言われて、水樹は快諾した。告白した相手の妹と、二人きりでのお話。どんな話をするのかはわからなくても、彼女に断る理由はなかった。

 水樹は椅子を茜に出してから、自身はベッドに腰かける。

「それで、お話って?」

 真向かいに座って、水樹は気楽に尋ねた。

「お兄ちゃんのことです」

 茜も小さく頷いて、笑顔でお話を始める。

「お兄ちゃんに告白したのって、いつですか?」

「半月ちょっと前だよ。槍の領主と戦う少し前」

 これくらいの質問は予想済み。水樹は慌てることなく、すらすらと答えを返した。

「半月……返事は聞かないし、お兄ちゃんからも何も?」

「うん。だって、その、恥ずかしいというか、ほら、ね?」

 言いにくそうにする水樹を、黙って見つめる茜。

「……お兄ちゃん」

 呟いた言葉に、水樹が微かに反応する。

「あ、でも、本当に緑は悪くないよ?」

「ふふ、咄嗟にかばうくらい、お兄ちゃんのことが好きなんですね」

 微笑む茜の言葉に、水樹はほんの少しだけ目を逸らしてから、再び彼女と目を合わせた。

「でも、茜ちゃんには負けるかな」

 やや弱気な声で、水樹が言った。

「私に?」

 小首を傾げる茜に、水樹は頷いて言葉を続ける。目は合わせたまま、声も弱いままで。

「茜ちゃん、緑のこと大好きでしょ? それに、緑だって」

「はい。緑お兄ちゃんは理想のお兄ちゃんです。私はお兄ちゃんを愛していますし、お兄ちゃんだって私のことを愛しています。昔から、今も、これからだって」

 水樹の言葉に、茜は素直に自分の気持ちを口にする。

「でも、兄妹としてですよ? 昔からずっと、お兄ちゃんはお兄ちゃんです」

「本当に?」

 念を押すような水樹の言葉に、茜は満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。

「はい。私とお兄ちゃんは仲良しの兄妹。それだけですよ? 『大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになるの!』なんてことも言ったことはないです」

「うん、緑から聞いた。本当だったんだね」

 茜の言葉は素直で、兄への気持ちは純粋なもの。無意識に異性として意識しているといった様子もなかった。しかし、水樹が安心するにはもう一つ尋ねないといけない。

「その兄妹の中に、あたしが入る余地ってあるのかな?」

 水樹の言葉に、茜は鋭く反応した。椅子からぴょんと立ち上がり、両手を組んで早口で語り出す。

「それはもう、私としてはむしろ大歓迎で――そこはお兄ちゃん次第じゃないですか?」

「茜ちゃん?」

 言い直す前に口から出てきた茜の言葉。最後までは言い切らなかったが、大歓迎とまで言われれば気にしないわけにはいかない。

「えへへ……ところで、お兄ちゃんと水樹さんが恋人同士になったら、当然やるべきことはやるんですよね」

「え? う、うん……気が早いと思うけど、どうしたの?」

 急な話題転換に、水樹は茜に訝りの視線を向ける。

「やだなあ、水樹さん。初めてで緊張しないように、今から私と練習しましょうという話ですよ?」

「へ? あの、ちょっと、それって」

 戸惑いを見せる水樹に構わず、茜は優しく彼女をベッドの上に押し倒す。水樹が抵抗しようと気付いたときには、茜は室内用の簡素な靴を脱いでいて、いつの間にか彼女の靴も脱がされていた。

「あ、あれ?」

 茜は立っていて、水樹はベッドの上に腰かけている。その間は足は床についていて、いくら素早く動いたとしても、靴を脱がすのは困難なはずだ。

「〈妄想〉って便利なんですよ。こういうときに、触れずに脱がすことも簡単で」

「……ああ。って、そうじゃなくて!」

 欠片の力を使ったのなら納得だ。そうして見せた水樹の一瞬の隙を、茜は見逃さない。ベッドの上に仰向けになった水樹の上に、茜は完全に覆いかぶさろうとしていた。両腕と両脚で完璧に逃げ場を封じ、じわじわと体を密着させようとする。

「安心してください。ここからは、自分の手でやりますから」

「安心できないよ! ちょ、ちょっと、緑ー! 織乃ー!」

 その体勢のまま、茜は制止してじっと水樹の顔を見つめる。

「あれ? しないの?」

「したいんですか?」

 咄嗟に水樹の口から出た言葉に、茜もすかさず言葉を返す。

「したくないです」

 水樹も反射的に言葉を返した。

「そうですか。私も無理やりは好みじゃないんです。私にとっても初めて、やっぱりここは同意の上で……ふふ、時間はまだあります。まずはゆっくり、ハプニングを装って服の上から」

「それ、無理やりみたいなものだよ!」

「え? 冗談ですよー」

「目が本気だけど?」

 そんなやりとりをしながらも、茜はそろそろと水樹の服に手を伸ばそうとする。しかし、水樹も水樹で転がって逃げようとするので、見た目上は大きな動きはなかった。

「練習しませんか?」

「しません」

「……最初は強引でも、気持ちよければいいですよね」

「よくないよ!」

 呟くように言った茜に、水樹は大きな声で返す。鍵をかけた部屋の防音は完璧なので、その声は隣の織乃の部屋には届かない。「大事なお話だから鍵を閉めてもらえますか?」と茜が言った理由を、水樹はその身でようやく理解していた。

「お兄ちゃんが来るまで一時間……その頃には、水樹さんもきっと」

「一時間って……」

 お話を始めてから、まだそれほどの時間は経っていない。この体勢では、仮に茜が本気で強引な手段をとってきたら、水樹には逃げきれない。

「緑ー! 織乃ー! 誰でもいいから助けてー!」

 水樹の必死の叫びも、当然隣の部屋には届かない。

「無駄ですよ。大丈夫です、水樹さんだって、何もかも初めてじゃないでしょう?」

「そ、それは……うう……そういう問題じゃないよ」

 頬を赤らめて僅かに油断を見せたところで、茜は素早く動く。水樹の服に手をかけて、優しく、それでいて迅速に服を脱がそうとする。

 そのときだった。水樹の部屋の鍵が開く音がしたのは。

「その辺にしてもらえる?」

「茜……これは……」

「織乃! それに緑も!」

 扉を開けて入ってきたのは、隣の部屋にいるはずの二人。織乃のあとに続いて、緑が部屋に入ってくる。辛うじて服が脱がされる直前の、絶妙なタイミングだった。

「お、お兄ちゃん。なんで? 一時間後って……まだ楽しんでないのに」

「それが、織乃が様子を見にいきましょうって。俺が優勢だったから、最初は勝負をうやむやにするためかと思ったんだけど……」

「違ったでしょ? それと、勝負はもうちょっとで私が逆転する予定だったから」

 茜が油断している隙に逃げようとする水樹だったが、彼女の動きを封じる手足はそのままで、逃げることはできなかった。

「鍵は?」

「俺の特別で開けたよ。織乃が急いでって言うから」

「織乃さんの勘……いえ、目ですね?」

「ええ。ちょっと気になって、見させてもらったわ」

 彼女の目は透視もできる。防音が完璧で声は聞こえなくても、はっきり目で見てしまえば状況は簡単に理解できてしまう。

「茜、説明してくれるか?」

 一歩踏み出して、緑は妹に答えを求める。

「うん。元々そのつもりだったし……はあ」

 落胆を隠さない茜だが、体勢はそのまま。水樹は逃げられない状態だ。

「あのね、お兄ちゃん。私、女の子が好きなの」

 顔だけを兄に向けて、妹は告白する。

「女の子が?」

「うん」

「そうか。いつから?」

「昔からだよ。訓練施設に入る前、幼い頃から。でも、昔は恥ずかしくて、お兄ちゃんに嫌われるんじゃないかって思って、言えなくて……」

「辛かったんだね」

「お兄ちゃん……」

「あのさー、いい話みたいにしてるけど、それがなんでこうなるの?」

 見つめ合う兄妹の間に入ったのは、今も茜の下にいる水樹だった。

「まずは性欲に訴えてから、落ち着いて話そうと思ったんです」

「なんで?」

「それは、その……つい嬉しくて」

 水樹の二度目の問いに、茜は頬を紅潮させて答える。

「私、昔から思っていたんです。お兄ちゃんは格好いいから、きっと女の子にも好かれるだろうなって。そこで妹の立場を利用すれば、私もきっと幸せになれるって。でも、駄目ですよね、こんな形で無理やりは……」

「そうだね。茜」

「うん。ごめんなさい、水樹さん」

 目を瞑って、申し訳なさそうに謝る茜。

「だったら、手をどけてくれる?」

 彼女をしっかり見上げながら水樹が言った。

「……仲直り記念に、してみませんか? お兄ちゃんも混ぜて」

 薄く目を開いて真剣な声でそう言った茜を、水樹は黙って見つめ返す。

「百合な妹を持つと大変ね、お兄ちゃん。ま、好きにしたらいいわ」

「いや、好きにって言われても」

「あら、私は好きにやれとは言ってないわよ?」

 緑はほんの少しだけ照れた表情を見せてから、歩き出して背中から茜を持ち上げた。兄に抱っこされる形となった妹は、それでも名残惜しそうな視線を水樹に送り続ける。

「今度やったら、あたしも本気で抵抗するからね?」

「う……はい。私も怪我はしたくないです」

 水樹の言葉に、茜も渋々頷く。欠片の力を使っての、本気の抵抗。手加減はしても双方が怪我を負う可能性は非常に高い。そして今の実力からすると、大怪我をするのは茜の方だ。

「訓練に支障が出るのはやめてほしいわね」

 そんな織乃の一言で話は終わり、緑は茜を連れて部屋に戻っていった。残された二人、水樹は乱れた衣服を整えて、織乃は無言でその様子を眺める。

「ありがとう、織乃」

「感謝は不要よ。その気になれば、もう少し早く来られたんだから」

「ぎりぎりまで待ったってこと? どうして?」

 水樹の疑問に、織乃は微笑とともに答えた。

「その方がいいと思ったからよ。きっと、明日にはわかるわ」

 そう言い残して、織乃へ水樹の部屋を去っていった。そしてその言葉の意味を、水樹は翌日の訓練で理解することになる。融和に大切なのは、三人が仲良くなること。それは四人になっても変わらず、仲良くなるのは融和を高めるのに非常に効果的である。

 女の子が好きであることを明かした茜。好きな相手の妹に直接、二人きりで自分の気持ちを伝えた水樹。二人の融和は確実に高まっていた。兄妹もまた、妹の隠しごとを兄が知ったことで融和をさらに高めて、ついでに茜と織乃の融和も高まっていた。

「緑と茜ちゃんはわかるけど……織乃はどうして?」

「さあ? 茜とは気が合うんじゃないかしら?」

「そうかもしれませんね。織乃さん、心の相性だけでなく、体の相性も確かめてみます?」

「遠慮しておくわ」

 茜の誘いを平然と受け流す織乃。そんな二人に、水樹はやや釈然としない気持ちを抱きながらも、好きな人の妹と話したことは間違いでないからと自分を納得させていた。


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