カゲカケラ

第五話 槍


 影の兵士を無事に退けた緑、水樹、織乃の三人。だが、戦いの中で見えた課題も多かった。初勝利の余韻に浸る暇もなく、彼らは兵士を倒したその日から訓練を再開する。欠片の力の融和に成功したとはいえ、完璧というには程遠い最低限の融和でしかないのである。

 欠片の力を使った疲労、戦いの効率、そして何よりそれぞれの力を理解すること。特に、緑の〈特別〉を活かすには、言葉にせずとも互いの考えを把握できなくてはならない。

 比較的わかりやすいように見えた織乃も、訓練してすぐに難しさが見えてきた。彼女の剣に欠片の力を融和するのは簡単だが、〈目〉に関してはそうはかない。彼女が常時使っているのは動体視力の強化であるが、細かく分析すると相当複雑な力の使い方をしていると判明したのである。どうやら本人も無意識に使っていたようで、感覚で合わせることは難しい。ということでそちらは現在、睡蓮に研究が任せられている。

 第二訓練施設に備えられた設備により記録された情報。それらがあれば「少し時間をいただければ簡単ですよ」とのことで、現在彼らは別の訓練に取り組んでいる。

 水樹の〈翼〉との融和。彼女の翼は種類こそ豊富ではあるが、それぞれの力は単純でわかりやすかった。風を操る白い翼、炎を生み出す赤い翼、青い翼は水を生み出し、水色の翼は全てを凍らせる。大地を揺るがす緑の翼に、黄色の翼は雷を落とし、空を闇に閉ざすは黒の翼。この七つの翼が現在、水樹が得意とする翼の全てである。

 全ての翼に共通する飛行能力との融和に始まり、それぞれの翼との融和を確かめていく。単純ではあるが、七つもあれば訓練は一日二日では終わらない。

 翼との融和を確認している間に、睡蓮の研究も終わり彼らの訓練はさらに深まる。本人が細かく理解したことで、目の融和は意外と簡単にできるようになったが、今度の問題は緑の特別であった。彼が特別を与えることは簡単でも、特別に翼や目を与えるのは難しい。

 最終的に目指すのは、互いに与えて与えられる融和。それを考えると分離して訓練するのが効率的と思えたが、彼の特別に関しては通用しなかった。

 そうして訓練は試行錯誤を重ねながら続いていく。初めての休日から毎日続く訓練に、彼らは誰も疲労の色を見せなった。第一訓練施設での訓練も原則休日はなく、毎日の訓練は慣れたものであり、休日はなくとも休憩の時間は十分にとられている。

 一週間が経過した頃には互いの特性を理解し、融和も十分に高まっていた。完璧とはいえなくとも、以前に戦った影の兵士であれば余裕で倒せるくらいの融和。

「なるほど。そんなみなさんに、支援部隊からの報告がありますよ」

 夜。今日の訓練内容とその結果を報告した三人に、睡蓮が告げた。

「本日の昼頃から、海上に待機している影の兵士の姿を確認したそうです。数は二体。何らかの作戦行動をとっているようで、実力は非常に高いと思われます」

「二体……それに、最強に近い影の兵士か」

「今のあたしたちで、やれるかな?」

「実戦は大事。でも、訓練不足で挑むのは避けたいところね」

 近くにいるという強敵の情報に、彼らは判断に悩む様子を見せる。

「判断はみなさんにお任せします。距離は十分にあるので、欠片の力を彼らの方に向けなければ察知されないですし、訓練に支障はありません」

 逆に言えば、欠片の力を彼らの方に向ければ、二体の影の兵士を島に呼び寄せることも可能ということ。言葉にしなくとも、三人にはしっかり伝わっている。

「俺としては、明日にでもすぐにと言いたいところだけど」

「敵は二体。私たちはずっと一体を想定してやってきたから、一日くらいは準備をしたいところね」

「あたしたちが呼ぶまで、待っていてくれるかな?」

 三人に視線を向けられて、睡蓮は待っていたとばかりに笑顔で答える。

「支援部隊が監視していますから、動きがありそうならすぐに報告できますよ。多少の時間稼ぎも可能ですが、さすがに一日二日と足止めすることはできません」

「支援部隊って、そんなこともできるんですね」

 緑が言った。顔に出る感情に差はあるが、他の二人も驚きの色を見せている。もちろん、最も感情が出ているのは水樹で、一番出ていないのは織乃だ。緑はその中間である。

「彼女は優秀なんですよ。彼女だけが、というのが部隊としての弱点なんですけど」

「その人が欠けると、昔のように観測しかできなくなるってことね」

「ふふ、その通りです」

 設立当初を知っている織乃の言葉に、睡蓮は笑顔で返す。

「それじゃ、明日も訓練だね」

「ええ」

「了解だ」

 水樹の言葉に織乃と緑が同意を示し、話はまとまった。そのまま解散して自室に戻る直前、思い出したように織乃が睡蓮に声をかける。

「あ、睡蓮さん。敵の場所を詳しく教えてもらえる? 危険がないなら、私の目で確かめておきたいんだけど」

「いいですよ。ええと、まずは地図を表示しますね……」

 夜が更け、明日の訓練に備えて緑は自室で休んでいた。訓練を終えたら、控えているのは二体の影の兵士との実戦。新たな英雄を目指す彼にとって、この状況はわくわくするもの。ベッドの上に転がりながら、彼は戦いでの特別を色々と考えていた。ただし、パフォーマンスに特化した特別ばかりだが、それも彼の力の大きな源である。

 部屋にあるのは備え付けのベッドや机、椅子といった最低限の家具。訓練には疲れをとるのも大事ということで、どれも上質な家具である。部屋の各所には緑の私物が置いてあるが、ほんの僅かな量でしかない。

 影に襲われた街や村では、家も影に呑み込まれている。それから早くに第一訓練施設に入ったのだから、私物が少ないのも当然である。

 緑が次の特別を考えて、ちょっと試してみようとベッドから降りたとき、彼の部屋をノックする音が響いた。三人しかいない第二訓練施設。一応各部屋にも最新鋭の高度なセキュリティはあるが、必要性が薄いのでそのほとんどは最低レベルに設定されている。

「水樹か?」

「うん。よくわかったねー」

 緑は扉の前に行き、部屋の鍵を開ける。男一人に女二人、これくらいのセキュリティは必要である。ちなみに防音もセキュリティの一種なので、鍵を開ければ効果も弱まる。当然、これにも最新鋭の技術が使用されている。

「音を聞けばね。二人の違いはわかりやすいから」

 扉を開けて、扉越しにされた質問に答える緑。

「この短期間であたしの癖が緑に……もうそんなところまで知られちゃったなんて」

「それで、どうしたんだ?」

 芝居がかった言動には触れずに、緑は用件を尋ねる。

「ちょっとね。影の兵士を二体も相手にするのが不安だったから、部屋で睡蓮さんに話してたんだけど……」

 触れられなかったことを気にする様子もなく、本題に入る水樹。

「みなさんで話し合ってみたらどうですか、って言われたから会いにきたの。緑、時間あるよね?」

「これから織乃の部屋に行くのか?」

「うん」

「水樹の部屋からだと、織乃の部屋の方が近かったよね」

「隣同士だね。でもほら、織乃を男の子の部屋に歩かせるのもどうかなーと思って。もしかしたら緊張するかも」

「俺が女の子の部屋に向かうことは?」

「妹がいるから慣れてるでしょ?」

「うーん、いや、妹と同年代の女の子はまた……」

 あっさりと言ってのけた水樹に、緑はちょっと迷いを見せる。

「と、冗談はおいといて、私物も少ないから大丈夫じゃない? 織乃の部屋が困るなら、あたしの部屋でもいいし。もちろん、織乃次第でもあるけど」

「冗談……わかった、ついていくよ」

「ありがとね、緑」

 水樹は笑顔で言うと、踵を返してゆっくりと歩き出す。緑も彼女に続き、向かうのは廊下の先にある織乃の部屋。水樹と織乃の部屋は、緑の部屋から数部屋分離れたところにある。

「や、織乃!」

 部屋をノックして来訪を知らせ、扉を開けた織乃に水樹が挨拶する。

「いらっしゃい。……緑も一緒?」

 夜の来訪者を慣れた様子で迎える織乃。二人の部屋は隣同士で女の子同士。それぞれの部屋を訪れる機会は、彼女たちが緑の部屋や、緑が彼女たちの部屋を訪れるよりも多い。

「恥ずかしい?」

「そうね。緑、部屋に入ってもいいけど、一つ注意があるわ」

「なんだ?」

「そこの棚、下着が入ってるから開けないでね」

 織乃が指差した棚を見る緑。水樹はさっさと部屋に入っていて、廊下にいるのは緑だけだ。

「それを教えられてどうしろと?」

「別に。何もしなければいいだけよ。ね、水樹」

「うん。……先手打たれた」

 小さい声で口にした言葉に、緑は大体を理解して織乃の部屋に入る。内装は緑の部屋とほぼ同じで、私物の数も少ない。女の子らしさを感じるものもほとんどなかった。

「用件は?」

「二体も相手にして、本当に大丈夫かな?」

「……不安?」

 一言で話の内容を理解した織乃は、少しの間を置いてから水樹に尋ねる。

「うん。だって、影の兵士は強いよ。前は勝てたけど、それよりも強いのが二体でしょ?」

「無理ではないけど、正直ぎりぎりの相手だろうね」

「そう。そんなぎりぎりの戦いを、わざわざする必要があるのかなって」

 緑の分析に同意を示す水樹。織乃もここまでは異論がないようで、黙って話を聞いていた。

「緑はやる気、あるんでしょ?」

「ああ。新たな英雄の誕生を、世界がいつまで待ってくれるかわからないしね」

「水樹が怖いなら、私と緑だけでやることになるわね」

「それって……危ないよね? でも、織乃のことだから、本気だよね」

 水樹の質問に、織乃は微笑で答える。

「無謀だよ、二人でなんて」

「でしょうね。でも、水樹がいれば問題ない」

「ちょっとした脅迫だよ、それ」

「ええ。それが何か? 私の目的は影への復讐。そのためならどんな手段でもとるわ。貴重な戦力である、私たちの命を犠牲にしない範囲で……ね」

 冷然と、改めて自身の目的を口にする織乃。その言葉に、その瞳から感じる決意に、二人は一瞬言葉を失う。失いながらも、頭に浮かんだ言葉を緑は彼女に伝えた。

「危ういな」

「そういうの、心の中にしまっておくものじゃない?」

「しまったままじゃ、伝わらないからね」

「……気をつけるわよ。二人が協力してくれるならね」

 織乃は少し黙ってから、まっすぐに見つめる緑をしっかり見つめ返して答えた。

「むう……この流れ、今更断れない雰囲気。仕方ないか、その代わり、ぎりぎりでも絶対に勝つんだからね。あたしもこんなところで、終わるつもりはないから」

「俺だって、そのつもりだよ」

「よろしくお願いするわ」

 改めて互いの意志を確認した三人は、最後に微笑み合ってからそれぞれの部屋へと戻る。目的や事情は違っても、影を倒すという重要な目的は皆同じ。それがある限り、彼らの結束が簡単に崩れることはない。

 夜が明けて、一日の訓練を終えて再び夜が来る。戦いに備えて激しい訓練はせず、二体を相手にすることに特化した訓練。帰還した彼らは、今夜は動く様子がないと睡蓮に確認してから、明日の戦いに備えてその日はゆっくり休むことにした。

 翌朝。海上に待機する影の兵士を呼ぶのは、緑の役目。織乃の目で確認した方向に、特別な招待状を贈る。書いてある文章は読めなくとも、欠片の力が届けば問題はない。

 彼らは施設から離れた林に待機し、二体の敵を呼ぶ。身を隠す場所の多い林の近くには、小さな渓流もある。林も施設の近くにあるものに比べれば小さく、状況によっては敵を分断することも考えての選択だ。

「届いたかな?」

「問題ないわ。少し迷っているようだけど……来るみたいね」

 緑の質問に、影の兵士を目で捉えている織乃が答える。

「どれくらいかかりそう?」

「三分……いえ、二分といったところね。速いわよ」

 水樹の質問に答えてから、織乃は目で見るのをやめて武器の準備をした。漆黒に輝く影の剣を手に持ち、敵がやってくる方向に向けて構えて待つ。彼女の目で見えるくらいの開けた林。近づけば両者の姿を確認するのは難しくない。

 そして二分後。二体の影の兵士は並んで三人の前に降り立った。海上から人の姿のまま飛行し、着陸。握っている剣はやや刃こぼれしているが、前の兵士のようにぼろぼろではない。

 影の兵士は辛うじて正面がわかる程度の顔で、互いの顔を見合わせるような仕草を見せてから、三人に対して武器を構えた。影の力だけでなく、思考という点でも前の敵より上であると知るには十分な動作だった。

「私は右を狙う。水樹は左をお願いね」

「うん」

 影の兵士に向かって駆けていく織乃。水樹も緑の翼を広げ、彼女と速度を合わせてもう一体の影の兵士を目指す。緑は後方で待機し、弓を構えて二人の支援をする。

 二本の剣がぶつかり合い、隆起する大地を潜り抜けて影の兵士が跳ぶ。力や速さは確かに高いが、動きは単純。二対三という不利な状況を覆すための、各個撃破といった戦術をとる様子もなかった。

「ふむ……この動きなら、一瞬の隙を作れば十分かな」

 敵の動きを見て、緑は矢の狙いを左の影の兵士――水樹が戦っている方に集中する。大量の矢と細い槍のように隆起する地面に、狙われた兵士は動きを鈍らせる。

「織乃!」

「了解」

 緑の指示に合わせて、右の影の兵士と戦っていた織乃が一歩踏み込む。彼女の剣が影の兵士を斬り、その一撃で胴体を切断された兵士は急速に元の形に戻ろうとする。

「遅いよ!」

 修復する余裕を与えず、大地を何十本もの細い槍のように隆起させて水樹が追撃する。鋭く断ち切る〈特別〉と、硬きを貫く大地の〈特別〉。二つの〈特別〉と二人の欠片の力を融和した、強力な連撃だ。直撃を受けた影の兵士は、その影を薄れさせて消滅した。

 やったことは前と同じ。しかし、融和が高まればその威力も上がる。敵が寄り強いものであっても、各個撃破を狙った三人の力はそれを僅かに上回っていた。

 仲間が倒されたことに一瞬の動揺も見せず、残った影の兵士は緑を狙って動きだす。一瞬で倒された味方。しかし、その一瞬で優先して倒すべき相手を把握しての行動。

 織乃は遠く、攻撃した直後の水樹の下を駆け抜ける影の兵士。しかし、その行動も彼らにとっての予想通りだった。

「そう簡単に、行かせないよ!」

 翼の色を水色に。影の兵士の進路を塞ぐように、氷の壁を作る水樹。それを迂回することもなく、体当たりで破壊して影の兵士は緑に突撃する。

「うわ。剣、使わないんだ」

「やるわね。でも、狙う相手が間違いよ」

 そして今の彼らには、前とは違う新たな融和の力があった。〈特別〉を二人に与えるだけでなく、二人の〈翼〉と〈目〉を一人に融和する、訓練の成果が。

「うん。残念だけど――」

「――緑は、弱点なんかじゃない」

 鋭く、速く、重い、影の兵士の渾身の一撃。普段の緑であれば完全に回避するのは難しい一撃を、彼は紙一重で回避する。さらに、手に握っていた氷の剣を敵の身に突き立てる。水樹が氷の壁を作ると同時に彼に与えて、彼が特別に寒く凍えるように強化した氷の剣を。

「これで、終わりだ!」

 突き立てた氷の剣をさらに押し込む緑。氷の剣は影の兵士の体に深く突き刺さったまま砕け散り、薄れる影をゆっくりと氷が包み込んでいく。

「終わってないじゃない」

「あはは、ちょっと足りなかったね」

 最後の力で影の兵士が氷を溶かした直後、織乃の漆黒の剣が影の兵士に襲いかかる。防御する力も、回避する力もない影の兵士は、その一撃で完全に消滅した。

「うーん、いけると思ったんだけど……全力でやったんだけどね」

「ま、これが今の実力ってことね」

「ふふ、どうにかやれたね」

「ああ。ところで織乃、気分はどうだ?」

「そうね。お姫様というのも悪くないわ」

 敵を倒し損なった緑に二人が合流する際、翼を広げて空を飛んだ水樹は、織乃をお姫様抱っこしていた。

 苦戦こそしなかったものの、全力を出してどうにか倒せた二体の影の兵士。このままもう一体を相手にするとなると、欠片の力はともかく集中力が続かない。三人の力を一つにする高度な融和を行うには、相当な集中が必要となり、今の彼らには一瞬が限界だった。氷の壁による時間稼ぎがなく、影の兵士に実力を見抜かれていたら危なかっただろう。

 勝利の余韻に浸る三人。一度帰還しようと歩き出したところに、影が差す。青い影。一際大きく、濃い影が彼らの前に差した。

 その影は一瞬で人の形に変化する。影の兵士とは違う、はっきりとした人の形に。

「ほう。我が兵士をまたも倒すとは……いい見せ物だった」

「……な」

「喋っ、た?」

 驚きの声をあげる緑と水樹。織乃も驚きの表情を見せながらも、声には出さずに黙って剣を構えていた。

 新たに現れた影は、騎士のような容姿をしていた。その手には長い槍を、手入れのされた白銀の槍を持っていた。一メートル九十センチの体躯に、三十代の雰囲気を漂わせる顔。影としての曖昧さを残しながらも、はっきりと表情のわかる顔を持つ――青い影。

「その剣、我に届けることは叶わぬぞ」

 手にした槍を突き出す青い影。槍の先から水流が生まれ、広がり、大きな水の槍が彼らを貫くように放たれる。

「二人とも!」

 咄嗟に盾を作った緑の後ろに、水樹と織乃が隠れる。大きく全てを受け流す、透明な盾。

「……ふ。咄嗟ではこの程度か」

 盾は水の槍に貫かれ破壊される。しかし、その槍は彼らの体を貫くことはなかった。水の槍は彼らに当たる直前で上方に逸れて、水の花を咲かせていた。

「我が槍、今は貴様らを貫くこととはない。欠片の力を扱う少年少女よ、次の機会を楽しみにしているぞ」

 再び影となり、消えようとする青い影。緑と水樹が黙って見つめる中、織乃が半歩前に出て叫んだ。

「待ちなさい!」

 彼女の叫びに、青い影は人の形を残したまま変化を止める。

「それほどの実力があって、ここで私たちを見逃すなんて……どういうつもり!」

 青い影は表情を崩さずに織乃を見つつも、再びゆっくりとただの影へと戻っていく。そんな態度を気にも留めず、織乃は言葉を続ける。

「あなたたちは、容赦なく侵略をしてきた。なのに、なんで今は……ふざけないで!」

「……我に問うなら、それなりの実力をつけるのだな、少女よ」

 織乃の叫びに対し、青い影はそれだけ言い残して、元の影に戻っていった。差した影も程無く消えて、彼らの前には太陽の光が戻ってくる。

「じつ……りょく」

 残されたのは、漆黒の剣を強く握り締めて敵の言葉を繰り返す織乃と、圧倒的な力を持つ影が消えた場所を黙って見つめる水樹。そして、虚空を眺めて静かに闘志を燃やす緑の三人だけだった。


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