一月も終わりを迎える頃、わらわはこの三か月に起きた出来事をまとめるため、菊花やツイナたちから手記を集めていた。一人で全てについて記していた者はいなかったが、幸いにもそれぞれが残していた手記をまとめることで、必要な情報は全て得られた。今のところ予定はないが、地底に住まうわらわの同胞に伝える際に困ることはないだろう。
手記を集めるには少々の苦労が伴ったが、手記の内容は他言無用と約束することで多くを得ることができた。
「あなたに見られるのが困るのよ!」
というツイナが最も大変で、観戦記しか残していなかった俊一は簡単であった。そのときの説得に際しては、わらわとしてもそれなりの恥ずかしい思いをすることになったのだが、それについては今は忘れるとしよう。
しかし、ポーニャのやつめ、変なところに挿入しおって。ポーニャからは最後に回収することになり、時系列を考えて適切な場所に頼むと伝えたのだが、どちらも最後に挿入するべきものではないか。
わらわたちが遥に魔法力の使い方を身につけさせるため、訓練を行ったのは一月二十二日の土曜日のこと。
方針についてツイナとちょっとした喧嘩となり、触手力とテール力をぶつけあう争いをすることになった。そこにポーニャが「実戦で学んではいかがでしょう」と遥をけしかけて、確かに激しい争いにはなったのだが……まったく、紛らわしい位置に挿入してくれたものだ。
けしかけたポーニャのサポートもあり、結果的に訓練は無事に終了した。それも想定していたよりも上々の結果で、だ。
わらわやツイナには及ばないにせよ、想定以上の戦う力を遥につけさせたポーニャ。地球侵略を目的とする、テール族日本部隊の隊長。彼女についてはやはり一定の警戒はしておかねばなるまい。いきなり派手に動くことはないであろうが、あやつの性格からして動いたときには下準備は完了済み、ということも十分にありうる。
そしてその翌日、俊一が菊花に告白し、さらに翌日には恋人同士となった。だが、二人の様子を見ていると、特別に大きく関係が変化したようには見えない。
「クーリー。ちょっといいかなー」
菊花がわらわの名を呼ぶ。わらわは集めた手記をくりぐるみの中に入れ、チャックを閉じて触手力を注ぎ厳重な鍵をかける。
佐宮家の窓から見えるのは、冬の夜空に輝く月と、淡く舞い降る真っ白な雪。
「うむ。問題はないぞ」
わらわは外に出て雪と舞い遊びたい気持ちを抑えながら、呼びかけに答える。菊花の声が聞こえたのは一階。菊花の部屋の扉を開けて、するすると床を滑って廊下を抜け、階段は一息に跳躍。着地点に触手力を展開させて、音を立てずに静かに着地する。
リビングには菊花と桜がいて、わらわの姿を見つけた菊花がこちらにやってきた。
「何の用だ、菊花?」
「明日ね、俊一とデートすることになったんだ。それでお姉ちゃんに相談してたんだけど、クーリの意見も聞きたいなって」
「わらわにも経験はないから、役に立てるかはわからぬぞ」
「未経験は私たちも同じです。だから構わないよ。ねえ、菊花?」
「うん。それじゃ、まずは場所なんだけど……」
ポーニャについては気になるが、急いで考えることでもあるまい。殺戮を好まず、知略による侵略を是とするテール族。それに、わらわたちとツイナの関係もある。姉として、妹を迷わせるような手段はとらぬであろう。
それより今は、菊花の相談の方が重大な難問だ。触手族の姫として、そして友好を結ぶものとして、可能な限り適切な助言をせねばならない。たとえそれが未知のものであろうとも。