戦いが終わった瞬間、遥ちゃんは意識を失ってふらりと床に倒れ込んだ。俊一はノートを放り投げて、クーリとツイナに支えられる遥ちゃんのもとへ駆け出す。魔法の使い手が倒れたことで、私たちを阻んでいた見えない壁もすっかり消え去っていた。
俊一が到着したのは、クーリとツイナが王座に遥ちゃんをそっと下ろした頃。意識を失って眠る妹に、駆け寄るお兄ちゃん。私は今しかないと、早足で近寄りつつ彼に声をかけた。
「今のうちに精液!」
「かけねーよ!」
あれ、私としては注ぐものとして提案したんだけど、俊一から返ってきた答えは別のものだった。なるほど、俊一は意識を失った女の子には、注ぎたい派ではなくかけたい派らしい。
「だが、今のうちというのは確かだな」
「そうね、目を覚ましたらまた暴走するかも」
「手はないのか?」
「まあ、一番手っ取り早いのは……」
クーリが触手の先っぽを俊一の下半身に向ける。
「それ以外で」
「ふむ。ツイナ、この塔に広くて丈夫な部屋はあるか?」
「五階に戦闘訓練部屋があるわ。でもあなた、その方法は……」
「わらわたちが協力すれば問題はない。無論、選ぶのは本人であるべきだがな」
話している間に私やお姉ちゃん、ポーニャさんも遥ちゃんの傍に到達できた。
「危険な方法なのか?」
「なに、簡単なことだ。遥が暴走したのは魔法力を制御しきれぬからだ。ならば、扱えるように訓練を重ねればいい。遥のやる気次第では、一日でも最低限の訓練は完了するだろう。どこかに戦いを挑むわけでもあるまいしな」
「ええ。今日は疲れてるでしょうから、とりあえずあたしたちのテール力と、クーリの触手力で一時的に抑えるとして、明日にでもやれば問題ないわ」
「みなさん、少し離れていてください」
ポーニャさんが近づくのと入れ替わりで、俊一が遥ちゃんから離れる。クーリ、ツイナ、ポーニャさんの力が遥ちゃんに注がれてから、彼女が目を覚ましたのは数秒後だった。
「……あれ、ここは?」
「遥。大丈夫か?」
きょろきょろとあたりを見回す遥ちゃんに、俊一が声をかける。遥ちゃんは小さく頷いてから、ぐるりとみんなの顔を見回して深く礼をした。
「ご迷惑をおかけしました。その、大体は覚えてます」
「ふむ。ならば話は早いな。説明は……」
「ああ。遥、よく聞いてくれ」
俊一は遥ちゃんが眠っている間にまとまった話を、彼女に伝える。
「訓練……それしかないの?」
「いや、他にもあるにはあるが、その」
「えっとね、遥ちゃんが俊一に処女をあげて精液を出してもらっても大丈夫だよ」
「おい菊花! そんな直接的に!」
「えー、でも、今は言わないと」
事実は事実なんだからぼかしても意味がない。俊一が言わないから代わりに言ってあげたのに、ちょっとくらいは感謝してほしいものだ。
「ええと……よくわからない単語がいくつかあったんですけど」
「俊一、遥ちゃん借りていい?」
「だめだ」
「ふふ。遥、私から教えてあげるよ」
お姉ちゃんは処女や精液について、遥ちゃんにとてもわかりやすい説明をした。余計な情報は口にしなかったので俊一も安心だ。
「お兄ちゃんとの子供……」
「……ええと、まあ、そうなるのか?」
遥ちゃんにじっと見つめられて俊一は目を逸らした。どうせ妄想では一回くらい遥ちゃんを使ってるんだから、そんなにどきどきして照れることないのに。
「無理ですよ」
「そうだよな。兄妹だからそういうのは……」
安堵の表情で同意を示す俊一に、遥ちゃんは首を横に振った。
「そうじゃなくて、私、生理っていうのもまだだし、色々と準備が整ってないし……あ、でもそのあたりはクーリさんたちがどうにかするとしても、子供ができても育てられないよ。兄妹なんでしょ?」
「ああ、それでしたら私たちも協力をしますよ?」
「あ、なら問題ないですね」
「……なあ菊花」
困ったような顔で私を見る俊一に、微笑みを返しておく。
「やだな、俊一。遥ちゃんがブラコンなのはわかってたことじゃない」
お兄ちゃんのお嫁さんになる! お兄ちゃんの子供が欲しい! これくらいは純粋なブラザーコンプレックス所持者としては当然の思考だ。別に不思議でもなんでもない。
「でも、そうしたらこの力は使えなくなるんですよね?」
「再封印になるのだから、無事に成功したらそうなるな」
「ですよね。長年かけて準備を整えて、ようやく解いた封印――というのはどうでもいいですけど、お兄ちゃんから半分もらったものもなくなっちゃうんですよね」
「なあ遥、俺の話も聞いてくれないか?」
「お兄ちゃんは私じゃいや?」
遥ちゃんは純粋な眼差しを大好きなお兄ちゃんに向ける。
「うっ……それは」
ここで言葉に詰まるあたり、俊一もやっぱり結構なシスコンだ。
「ということでクーリさん、ツイナさん、ポーニャさん。明日は訓練お願いします」
「あれ?」
急な話題転換に、俊一は拍子の抜けた声を出した。
「わかってるよ。お兄ちゃんには大事な想い人がいるんだもん。そういう目的じゃなくても、私なんかの相手をしたらその人に悪いもんね」
よくわからないけど遥ちゃんは最後に私の方を見ていた。明後日にはその理由が判明するのだけど、それはまた別の話。当然、私が記すことはない。