Sister's Tentacle 11

七本目 小さな女王を愛でたくなった


 四の月二の週。三の月の間に港町カーティット周辺の古代遺跡を探索し終えた兄妹は、再びグレストスに戻っていた。ここからセントレストに向かい、そこで次に向かう場所を決める。大きな町の周辺は調べ終えたので、野宿の増えるこれからが本番だ。

 グレストスではしばしの間の休憩。南西の山岳地帯は険しく、寒季の終わりが近いとはいえ、高地の雪はすぐには溶けない。女王の血を引くコーヴィアとユィニーでも、雪山越えの疲労は大きい。

 二の月の間は遊撃の女王の滞在で色々と賑わっていたグレストスだったが、一月ほど滞在した彼女がまた別の場所に旅立ってからは、平和な日常を取り戻していた。

 平和なグレストスの町を歩く兄妹を、一人の幼い女の子が見つめていた。

 外見からすると十歳かそこらの女の子。ベリーショートの銀髪に、瞳は薄い青。ついつい愛でたくなるようなとっても可愛らしい顔立ちで、清楚な衣装に身を包んだ姿は絵になる。身長は百二十ほどと小さく、胸も小さいながらも、ユィニーにはやや勝っている。

 腰には一振りの刀。彼女の体格からすると抜くことも難しそうな、長い刀だ。

 兄妹も女の子の視線に気付き、ユィニーは兄の顔を見る。

「お兄ちゃん、手を出した?」

「あのな、俺にそんな暇があったと思うか?」

 幼い女の子はとてとて歩いて兄妹に近づき、声をかける。透き通った綺麗な声だった。

「こんにちは。少しお話していいですか?」

 声をかけながら、幼女はユィニーの手を引く。

「ユィニー、手を出したのか?」

「むしろ出されてる」

 特に悪意はなさそうだと判断した兄妹は、手を引かれるまま道の端に連れていかれる。

「お二人とも、腕には覚えがあるとお見受けします。護衛をお願いできませんか? 今日はお疲れのようですから、明日にでも」

「報酬は?」

 彼らの実力なら、一般的な護衛をこなすくらいどうということはない。しかし古代遺跡の探索という目的がある以上、どれくらい付き合えるかは報酬次第である。

「えっと……お兄さんと、一緒のベッドで寝てもいいです。あ、でも、手を出したら本気で怒りますよ?」

「なんだその報酬は」

「嬉しくないですか? お兄さん、小さな女の子と旅をしていますから、てっきりロリコンかと」

「ユィニーは妹だ」

 コーヴィアは即答する。身長差から関係を聞かれることもたまにあるので、こういう対応は慣れている。もっとも、彼女のような幼い女の子に尋ねられたのは初めてだ。

「失礼しました。でも私に払える報酬はそれくらいしか……」

「ふむ。場所と期間は?」

 どんな事情があるのかはわからないが、場所によっては考えてもいい。もともとグレストスでの滞在は休憩が目的。腕が鈍らないように多少の鍛錬は続ける予定なので、条件次第ではその代わりに護衛というのも退屈しのぎに悪くない。

「町の外にある小さな古代遺跡に。順調にいけば一日もあれば十分です」

 幼女が示した古代遺跡は既に探索済みの遺跡だった。小さいながらも、内部には意外と厄介な擬似魔法の罠が仕掛けられた遺跡。近くにははぐれ魔物の巣もあり、兄妹でも探索に一日を要した。

「でも難しいのなら、一人でも構わないのです」

「一人って、あんた」

「それだけの自信があるなら、護衛なんて要らないんじゃない?」

 やや心配そうな視線を向けるコーヴィアに対し、ユィニーは冷めた対応だった。それもそのはず、彼女は幼女に手を引かれたのだから。目の前で兄を誘惑した幼女は普通の人間ではない。ユィニーはそれを肌で感じとっていた。

「ふふ、そう思います?」

「お兄ちゃん、どうする?」

 私はどっちでもいいけど、と視線だけで兄に伝えて、ユィニーは判断を兄に委ねる。目的は不明でも、悪意がないのは事実。警戒する必要はない。

「いいぜ。その遺跡なら、俺たちにとってもいい運動になる」

「ありがとうございます。それでは、明日迎えに行きますね」

 それだけ言うと、幼女は名も告げずに駆け出していった。宿の場所も告げていないし、そもそもどの宿に泊まるかも決めていない。大丈夫なのかとコーヴィアは思ったが、グレストスにある宿はそう多くはない。

 もし彼女が宿の状況を把握しているとしたら、ある程度の目星もつけられるから、見つけるのは簡単だ。

「お兄ちゃんのロリコン」

「ユィニーこそ、気になることあるんだろ?」

「そうだけど。別にどっちでもいい」

 確かに気にはなるが、放っておいて自分たちの迷惑になるわけでもないなら、積極的に関わることもない。基本的に面倒ごとは避ける。それがユィニーという少女である。

 そして翌日、朝早くに幼女は兄妹の泊まる宿に迎えに来た。迷った様子もなく、とても元気な姿で。宿屋の主人とは見知った間柄のようで、仲良く挨拶を交わしていた。

「お二人は準備、よろしいですか?」

「いつでもいけるぜ。先頭は任せときな!」

「後ろは私が」

 三人は並んで町を出て、目的の古代遺跡に向かう。はぐれ魔物の巣がある場所まではもう少し距離があり、しばらくは強い警戒は必要としない。

「で、あんたの名前、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」

「名前ですか?」

 コーヴィアに聞かれて、小首を傾げる幼女。

「いいですけど、その前に……」

「お兄ちゃん」

「ああ、わかってる」

 道の脇にある草むらから、大きな猫の姿をしたはぐれ魔物が数十体。ゆっくりとした動きで彼らの前に現れた。

「巣が移動したか。それに、あの群れ……」

 あの大きさのはぐれ魔物が、群れを作って移動することはあまりない。彼らは積極的に襲いかかる様子はないが、コーヴィアたちを警戒しているのは明らかだった。

 そのうちの一体が甲高い鳴き声をあげたのに合わせて、はぐれ魔物は彼らを取り囲むように動き出した。迂回は難しいと判断した兄妹は、臨戦体勢を整える。

「ユィニー」

「ん……ま、了解」

 コーヴィアが前線ではぐれ魔物と戦い、ユィニーは幼女の手をとって回避に徹する。触手を使って戦えばそれまでだが、兄が使わないでくれというので従うことにした。幸い、個々のはぐれ魔物は強くない。コーヴィア一人でも負けはしないだろう。

 剣を振り回しながら、大げさな動きではぐれ魔物を引きつけるコーヴィア。粘液はほどほどに撒き散らして、遠くの魔物への牽制とする。

 今は後ろの幼女を守るのが最優先。しかし、コーヴィアは今まで護衛として守られる戦いが多く、一人で戦う場合も見落とした部分はユィニーがカバーしていた。当然、そんな彼が付け焼き刃で妹の真似をしてみても、上手くいくはずがない。

 それでなくとも彼の持つ粘液の剣は、守りを固める相手には滅法強いのだが、遠くの敵を相手にするには不向き。

「……どうしよっか」

 数体の魔物が隙をついて、後方にいるユィニーと幼女に向かって動き出す。コーヴィアからは遠く、左右に分かれていてはもう止められない。せめて視線を後方に向けるのが精一杯だった。

 ユィニーは左手の先――幼女に見えない部分から触手を伸ばし、いつでも反撃できるように準備を整える。

「じゃ、驚かないで……」

「いえ、ここは私がやります」

 いよいよ近づいてきたところで、ユィニーが動こうとした瞬間。それを察知したのか、幼女は手を離して一歩前に歩み出た。

 刀を握り、幼女は素早く鞘から抜く。カチンという高い音とともに、刀が鞘に収まる音が響いたのはその直後。

 襲いかかるはぐれ魔物と、二人の間に雪が降る。それは小さな吹雪となって、ユィニーたちを守るように。そして、はぐれ魔物の動きを止めるように、荒れ狂う。雪に覆われたはぐれ魔物は動きを止め、地面に倒れ伏した。

「見えなかった……なんて速さだ」

「速くない。抜いてないだけ」

 彼女の体格、腕の長さでは刀を鞘から完全に抜くことはできない。少しだけ抜いて、音を立てただけ。剣先が見えないのは当たり前だ。

 その間に他のはぐれ魔物を蹴散らして、二人の近くに戻ってきたコーヴィアは言う。

「じゃあ、魔法か?」

「魔法……に見えなくもないけど」

 遠巻きに見ていたはぐれ魔物は、幼女の攻撃を見て完全に襲う気をなくしていた。

「見た目上は近いですね。詳しい方なら見抜けると思いますが」

 雪が溶けて、近くの魔物が動けるようになる。しかし、彼らからも戦意は消えていた。

「散ってください」

 微笑みとともに口にされた幼女の一声で、はぐれ魔物たちは散っていく。それだけのことをできるのは、この世において十一体だけしか持たない大きな力を持つ証拠。

「名前でしたね。私はヒヨ。氷海の女王です」

「氷海の……本当なのか?」

 兄妹が母から聞いた話では、氷海の女王は人に近い姿をしている女王ではなかった。大きい小さいならまだしも、その情報に間違いがあったとは考えにくい。

「氷海の女王が得意とするのは、分身と擬態です。色々と聞きたいこともあると思いますが、今は護衛に集中してもらえませんか? 見ての通り、それを隠す必要はないです」

「だってさ」

「ああ。ユィニー、任せたぞ!」

「うん。一人増えても、大差ない」

 元々、兄の護衛はユィニーの役目。彼女の触手の攻撃範囲・守備範囲からすると、守る相手が一人でも二人でも戦い方に変更はない。万が一取り逃したとしても、コーヴィアとヒヨの実力なら危険はない。

 ユィニーを先頭に、後方にはコーヴィア。近くにヒヨという形で、念のために後ろからの奇襲に備えておく。

 それからはぐれ魔物と遭遇することなく、三人は古代遺跡に到着した。

「中に?」

「はい」

 もっとも、はぐれ魔物が相手なら、ヒヨがいれば戦わずして突破することも簡単だ。しかしここからはそうはいかない。擬似魔法は侵入者を無差別に撃退する罠。無視できるのは仕掛けた術者くらいのものだろう。

 先頭のユィニーが一歩足を踏み入れた瞬間、一階建ての小さな遺跡の中に風が巻き起こる。それらは数多くの小さな風の弾となって、侵入者に襲いかかる。

 素早く小さい無数の風の弾。ユィニーは細い触手を数百本、まとめて変化させてそれぞれの核を潰していく。いくつか隙間を縫って狙ってくるものにも、余った触手が後ろから追いかけて突き刺す。

 速度も、数も、威力も、全てにおいてユィニーが一枚上手。初見のときはもう少しかかったが、動きがわかってしまえばどうということはない。術者のいない擬似魔法。一度決められた命令は変えられない。

「さすがです」

「自慢の妹だな」

 他の擬似魔法や罠も難なく退け、三人は古代遺跡の最深部に到達した。

 ここには小さな宝箱があったが、兄妹が訪れたときには中身は空っぽだった。ヒヨは部屋の隅にあった瓦礫をどけて、その陰にあった小さなくぼみに手を伸ばす。中から取り出したのは小さな一つの箱。

「それを探しに?」

「はい。二十年前に立ち寄った際に隠しておいたのです」

 ヒヨは小箱を開けてみせる。中には小さな宝石が一つ収まっていた。

「一人で、じゃないよな?」

「当時はユイキィと一緒に来ました。久々にグレストスに立ち寄って、ふと思い出したので探してみようかと」

「用事は済んだなら、さっさと戻ろう」

 ゆっくり話し込んでいる時間はない。コーヴィアとヒヨは頷いて、三人はそのまま古代遺跡から脱出した。

 帰り道、大半の目的を終えた兄妹は氷海の女王に質問をする。

「二十年前って言ってたな。たまに大陸に来るのか?」

「以前はそうでした。しかし、東大陸で三乳が遊びを始めてからは、氷海を訪れる人も減ったので大陸にいます。退屈ですから」

「その割には……」

「噂になっていない、ですか。当然です。ユイキィと違って、私は滅多に氷海の女王であることは明かしていませんから」

「宿や食事はどうしてるんだ?」

 宿は野宿でも問題ないが、食事はそうもいかない。女王であれば人を襲うのが手っ取り早いが、それにしては噂にならないのも不思議だ。

「あなたに護衛を頼んだときのこと、覚えていますか?」

「ああ。まさか、いつもあれで?」

「はい。そのための擬態です。幼女大好きな男の人――たまに女性の方もいますが――の家にお世話になれば、宿も食事も思いのままです。一人で旅するかわいい幼女。ロリコンにとっては至高の存在。氷海の女王だと明かす必要はないのです」

「危なくないのか、それ」

「真のロリコンであれば、幼女に手を出すような真似はしません。もし幼女に襲いかかるような偽者のロリコンなら、女王の力でおいしくいただくだけです。こうして世の中から偽のロリコンは消え、真のロリコンだけが生き残る。私の天下です」

「あんた、やっぱり女王なんだな」

 自らが強い力を持つことを理解し、その力を使って人間の上に立つ。それが女王にとって当たり前の生き方。体は小さくても、ヒヨはしっかり女王として生きていた。

「けど、それはそれで話題になりそうなもんだが」

 ロリコンを公言している人は多くないにせよ、続けていれば真ロリコンの間で顔が知られてもおかしくはない。偽ロリコンとはいえ、死者が出れば少しは噂にはなるはず。

「変えてるんじゃない?」

「その通りです。数年ごとに、幼女のタイプを変えています。それに私が得意とするのは擬態だけでなく、分身もあります。いざとなれば証言を駆使して、多少の情報操作をするくらいは簡単です」

「敵に回したくはねえな。回すつもりもないが」

「そうですね。私も戦いは好きではないです。疲れますから。この前なんか、わざわざ氷海に乗り込んでくる方まで現れて、対処に苦労しました」

「ほう。物好きな奴もいるもんだな」

「心当たり、あるけどね」

 氷海に乗り込む目的は当然、ふたつしかない。剣を求めてか、氷海の女王との戦いを求めてか。後者に心当たりはないが、前者であれば数人いる。

「お知り合いですか?」

「多分な。どんなやつらだった?」

「イークァルの娘とトフィンの娘です。容姿などの特徴は……」

「それだけで十分だ。しかし、リリファは予想通りだが、マセリヤも一緒か」

「大変そうだね」

 十一本の剣を集める。彼女の目的を考えると、自然な行動ではあるが、とても積極的に協力したいと思えるようなものではなかった。

「心当たりというのは、他にも?」

「ああ。そいつらはリリファと違って、ちょっと面倒なやつらだ」

 コーヴィアはロゼックとリッセの兄妹についてヒヨに語る。

「あいつは好戦的だからな。また出くわしたら、戦う羽目になりかねん」

「お兄ちゃんも熱くなってたけどね」

「一度きりだ。あんな厄介な相手とわかってりゃ、今度は逃げるぜ」

「なるほど。スィーキアの子であれば不思議ではないですが……彼女もついに本格的に動き出したのですね。北方で人間を管理するのは結構ですが、私たちまで巻き込むのは困りますね」

 ヒヨはため息をついて、小さく肩をすくめてみせた。口にする言葉は女王のものだが、動作は幼女らしい可愛らしいもの。完璧な擬態である。

「となると、この破砕の剣は誰かに預けましょうか。コーヴィアさん……は粘液の剣の適応者ですから、ユィニーさん、いかがですか?」

「えー。面倒ごとに巻き込まれるのはお兄ちゃんだけにして」

 一旦は渋るユィニーだったが、少しして思い直したのか、小さく頷いた。

「ま、預かるだけなら。リリファに渡せばいいだけだし」

 兄妹が剣を集めるのに協力するのは残り一本になってから。とはいえ、無条件で渡してくれるというのなら、受け取っておくくらいの手伝いはしてもいい。

「感謝します。では、どうぞ」

「うん」

 ヒヨは腰に添えた刀を鞘ごと抜いて、ユィニーに手渡す。ユィニーは受け取った刀を腰に添えて、動きやすいように調整する。彼女の体格でも抜くのは難しいが、触手があるので無理に刀を使う必要はない。

(この刀……変な感じ)

 受け取ったときに感じた不思議な感覚は、腰に添えてからも続いていた。女王の持つ十一本の剣は、神の力を受け継ぐ特別な剣。しかし、兄の粘液の剣を触ったときには、このような感覚を味わったことはなかった。

「どうしました?」

「動きにくいか?」

「うーん……私、面倒なものを預かっちゃったかも」

 ユィニーは一本の触手を伸ばして、近くの岩に触れてみる。中くらいの太さの触手で勢いもない、優しく触れただけの一撃。たったそれだけの攻撃で、触手の触れた岩は粉々に砕け散っていた。

「なんだ、今のは!」

「これは、驚きましたね」

「気付いてなかったなら、仕方ないかな」

 ユィニーは触手を手に戻して、刀の形状をした破砕の剣に触れてみる。

「変な感覚は消えた、かな。慣れたみたい」

「今のは……そうか」

「うん。適応者、みたい」

 剣に触れれば素質はわかる。それは先天的なもので、出会いは偶然に頼るしかない。

「なんだか、ユイキィに悪いですね」

 ヒヨは苦笑してみせる。長年の間、世界を飛び回って震電の剣の適応者を探す遊撃の女王。女王の血を半分引くユィニーなら、ただの人間より確率は高いとはいえ、彼女のように探すことなく、たまたま預けた相手が適応者だったというのは幸運というべきか。

「ま、帰ろっか」

 ユィニーは平然として、また歩き出す。適応者であろうとなかろうと、リリファに会ったら渡すつもりの剣だ。彼女にはさほど関係はない。

 もっとも、剣がほとんど集まっていないのなら、しばらくはそのまま持っていてほしいと言われる気もしたが、それならそれで武器として使うまで。

「しかし、いきなり使えるとは」

「助言のおかげ」

 相性や実力の差もあるが、ユイキィからの助言を一緒に聞いていたのも大きい。普通なら適応者であっても、その力を使いこなすにはそれなりの鍛錬が必要だ。

 グレストスに到着した三人は、そのまま途中で別れることにした。

「ヒヨはこれから、どうするんだ?」

「特に何も。いつものように暮らすだけです。懸念となるものはユィニーさんに預けました」

「返してほしいならいつでも返すけど」

「結構です。とりあえず、当面の問題が解決するまでは。少しだけですよ」

「少し、ね」

 不老である女王にとっての少しは、一年やそこらではない。女王の血が半分流れている兄妹も普通の人間よりは長寿だが、女王に比べると雲泥の差。長生きの人間と同じくらい健康で生活できるといった程度のものである。

 当面の問題をさっさと解決してしまえばそれでおしまいだが、コーヴィアもユィニーも積極的に関わるつもりはない。しかし、剣を二本も持っていれば、消極的でも巻き込まれるのは必定。

「では、機会があればまた会いましょう」

「ああ、それじゃあな!」

「早めに返すから」

 とてとてと走っていくヒヨの後ろ姿を眺める兄妹。可愛らしい幼女は、今夜もどこかのロリコンを狙うのだろう。

 鉱山の町で氷海の女王と出会いし兄妹。そして受け取ったのは一振りの刀、破砕の剣。深入りはせずに遺跡探索に集中していた兄妹も、今になって大きな物語の中心から脱することは不可能だった。


八本目へ
六本目へ

Sister's Tentacle 11 目次へ
夕暮れの冷風トップへ