騒動が終わった翌日。私の家には未希と梨絵がやってきていた。目的は当然、梨絵に詳しいことを説明してもらうためである。梨絵によると、もうひとつ目的があるそうだけど、その理由については何となく想像がついている。
「先輩、まずは最後の仕上げをしますね」
部屋に着いて早々、梨絵はそう言った。私はその言葉に合わせて、あるものを差し出す。
「これ、だよね」
七枚のカードを失くして、空になったカードケース。今回もこれは残っていた。
「はい。先輩方、少し離れていてください」
梨絵は床に座り、目の前に置いたカードケースに両手を伸ばす。ひとつ大きな深呼吸をしたあと、手のひらから放った淡い光でカードケースを包み込む。光の輝きが強くなって、それが収束したときにはその場からカードケースは消えていた。
「終わりました。これで全て解決です」
「ありがとう、でいいのかな?」
「そうですね。でも、その言葉は未希先輩に向けて言うべきですよ。あの組み合わせを見つけられなかったら、カードを消滅させることはできませんでしたから」
私と梨絵の視線は未希に向く。未希はちょっと照れながらも、私たちの感謝の言葉を素直に受け止めていた。
「そんなことより、梨絵ちゃん。詳しく説明してくれる?」
照れ隠しでもなんでもなく、普段のトーンで未希が促す。私以上に、未希には今回の出来事の真相が気になっているようだ。
「了解です。とは言っても、どこから説明するか迷うところなんですけど……やっぱり最初はこれですよね」
そう前置きして、梨絵は語り始めた。私たちは黙ってそれに耳を傾ける。
「あのカードについてなんですけど、詳しい経緯は不明なんですが、昔にどこかの天使たちが作ったアイテムなんです。多分、時間操作を試したいとかそんなところなんでしょうけど、ここで問題なのは、それが効果を発揮した際の対処法が詳しく残っていなかったんです。
と、ここまで言えば気付いているかと思いますが、魔王なんてのは存在しません。カードが破壊されないように防ぐ力が、ああいう形で現れたというだけですね。そもそも、天使という呼び名もこの世界の人が勝手につけただけで、私の生まれた世界は魔法が存在する世界というだけなんです。ですから、翼が生えていたりとか、神に仕えていたりとか、そういうのはないんですよ。
それと、話を合わせて単語を変えはしましたが、こちらに来るのに試験みたいなものがあったのは事実です。旅行する際に他国の言葉や文化を覚える、みたいなものでしたけどね。もっとも、一度来たら戻るのは簡単ではないので、他国への移住と表現した方が近いです。
ともかく防ぐ力を倒したことでカードを消滅させられたわけです。カードが現れた理由ははっきりとはわかりませんが、多分、以前の所持者がこの世界とあちらの世界をつなぐ通路で紛失していて、誰かが最近通路を利用したときに偶然こちらに飛んで来た、といったところでしょう。もっと専門的な説明もありますけど、少々長くなるので割愛します。
以上で説明は終わりです。ということで、私はそろそろ帰りますね。カードを消滅させるのに相当な力を使いましたから、もう少し休みたいんです」