図書館にいた茜に声をかけようとして、浴衣は躊躇する。そこには茜だけでなく、オルハも一緒に仲良く――かどうかはわからないが――並んで本を読んでいた。
この状況で、茜を呼び出して二人きりで話をする。そうしたら、確実に勘繰られる。
「茜、オルハ、三人で外でも見ないか? いい天気だし」
やはり告白にはムードというのも大事だと思う。その状況を作るには、まずは三人で外に出て、そこから二人になる。それが一番手っ取り早い。
無言で頷いた二人に(図書館ではお静かにである)、浴衣は二人をつれて外に出る。
広場の彫像を眺めるように歩き抜けて、外の展示物が並ぶスペースへ。平日で人の姿は少ないが、ゆっくり眺めて完全に人気がなくなるのを待つ。それとなく確認して、浴衣は足を止めて口を開いた。
「茜」
「お、ついに告白?」
「ゆかたんがしたいなら、私は証人」
「……ムードも何もないな」
思わず口からこぼれた言葉に、茜とオルハは顔を見合わせてから、微笑んだ。
「だってほら、浴衣くん怪しかったし。告白するのはどっちかなーって、浴衣くんが一人でいる間に、オルハちゃんと話をしてたんだよ」
「愚問だった。そこに私が入るのは理解不能。何度も言ったのに、しつこい」
「えー、そんなこと言っちゃっていいの? じゃあ、はい、不束者ではないですがよろしくお願いします。エロゲならこれから待望の初えっちだね。浴衣くん、どこでする?」
「告白する前に答えるのはやめてほしい」
「ふ……もう遅いよ?」
不敵な笑みを浮かべた茜に構わず、浴衣は用意していた言葉を言うことにした。
「あの日、お風呂で出会ったあのときから、君のことが好きになってたんだと思う。気付くのは遅れたけど、俺は茜のことが好きだ」
「はい。子作り、する?」
「しない」
こうして無事に告白は成功した――ということでいいのだろうかと、浴衣は釈然としない気持ちのまま、証人としてこの場にいたオルハに視線を向けた。
「ゆかたん、ファーストキスくらいならしてもいい」
「ん? 俺の記憶に間違いがなければ、それなら」
小さい頃にちょっとしたきっかけで、軽い口付けを幼馴染み同士でしたことがあった。形はどうあれ一応、互いの意思によってキスをしたのだから、間違いなくファーストキスだ。
「……私は覚えてない。ゆかたんの記憶違い」
少しの間が気になったが、どちらも小さい頃の出来事だ。はっきりと覚えていなくてもおかしくない。浴衣自身も、ファーストキスという言葉で唐突に思い出しただけなのだ。
「私はキスより子作りがいいなあ」
そんなことを言う茜の態度に、成功は成功でも大変なのはこれからだと浴衣は直感する。劇的な出会いから、あっさりとした告白を経て、劇的な恋をする。それを考えると別に問題はないと思うのだが、あまりにも簡単に終わった告白に浴衣は少し気が抜けていた。