カゲカケラ

第十三話 影の根源


「さて緑くん、こちらに来ればお姉さんとえっちなことし放題ですよ。もちろん、私だけじゃなくて他のみなさんも……」

「……凄い誘惑。でも、負けないでお兄ちゃん!」

「誘惑されそうなの、茜の方だよね?」

「そ、そんなことないよ。私、名前呼ばれてないもん!」

「茜ちゃんでもいいですよ?」

 彼らの最後の戦いはそんな会話から始まった。場所は娯楽室。六人が動いて戦うには狭い部屋なので、彼らはすぐには動かず影の根源――睡蓮の出方を窺う。

「魅力的な提案です。でも、残念ですね。お兄ちゃんハーレム、そして私のハーレムは、私の力で勝ち取ると決めているんです!」

 睡蓮を指差して、茜ははっきりと言い放つ。

「……いい覚悟です。なら、受けて立ちましょう」

 真剣な声で答えた睡蓮に、茜は緑たちに微笑みを向ける。褒めてあげるべきかどうか迷う彼らだったが、その結論を待たずに睡蓮が動き出した。

「必殺! まじかる☆みさいる!」

 いつの間にか手に持っていたファンシーなステッキから、小さなミサイルを六本放って、睡蓮は叫んでいた。緑たちは咄嗟に防御の構えを取り、その攻撃を受け止める。可愛らしい見た目に反して強烈な威力で、爆発を防いだ彼らは衝撃で後退する。

「ふふん、どうですか?」

 爆発の煙の中、睡蓮は満面の笑みを見せる。

「あ、そうそう。この施設のことは気にしなくて大丈夫ですよ。私が影でお手伝いして作った施設、この程度で壊れる心配はありません」

「これは、想像以上の威力ね」

「だから言ったでしょ。根源様を相手にするっていうのは、こういうことなのよ」

 その身に受けて感じた力に対し、真剣な声で言った織乃に、阿裏奈が当然といった表情で言葉を返す。そんな二人を横目に、緑が気になることを尋ねる。

「それより、なんですかそれ?」

「まじかる☆ステッキ――魔法少女すいれんの必須アイテムですよ」

 不敵な笑みを浮かべて睡蓮は言った。

「お姉さんじゃなかったんですか?」

「ふふ、影の根源が生まれてから十年。みなさんの年齢に合わせれば少女ですよ? それに、この方が可愛くて綺麗でしょう? 影は綺麗に全てを呑み込む……私、血を見るような殺伐としたのは嫌いなんです」

 ふっと睡蓮の姿が消えて、一瞬のうちに緑の目の前に接近する。織乃も目で捉えるのがやっとで、誰もが反応できないような速度で、睡蓮は緑の胸にステッキを軽く触れさせた。

「この部屋、狭いですよね? とりあえず、緑くんから外に出してあげましょう」

 輝く光とともに緑の体は吹き飛ばされ、同じ光でいつの間にか開いていた扉を抜けて、廊下の壁に叩きつけられる。緑の体に痛みはない。だが、彼は見えない何かに縛られているかのように、壁に張りつけられたまま動けなくなっていた。

「これくらい!」

 緑が影の力を高めて、その〈特別〉で脱出しようとする中、睡蓮は娯楽室の中央でステッキを高く上げて笑顔を見せていた。

「みなさんは、施設のどこかに飛ばしちゃいましょう。融和はできても、位置がわからなければ……といっても、私も同じなので先に合流すれば有利かもしれませんよ?」

 ステッキが一際大きな光を放ったかと思うと、光に包まれた五人の少女は娯楽室から姿を消していた。緑が脱出したところに、睡蓮はゆっくり歩いてくる。

「今のは――茜と同じ」

 槍斧の領主との戦いで、茜が〈妄想〉で行使した転移の力。それを再現するかのような睡蓮の技に、緑は警戒を強める。

「ふふ、そうですよー。それから、こんなこともできちゃいます」

 直後に、睡蓮は左右に二体の分身を生み出して、そこから炎を廊下に放つ。無差別に襲う炎の中を華麗に避けるように歩き、ステッキの先から伸びる七色の光の刃を緑の喉元に。突き立てられる直前に緑が生み出した盾は、それが触れただけで消えてしまった。

「あっさりと……」

「緑くんの〈特別〉ですね。でも、私の攻撃はその程度じゃ防げません。影の根源は〈翼〉を広げ〈力〉を揮い、その〈目〉は全てを捉え〈光〉のように、素晴らしき〈妄想〉を持って全てを影に呑み込み染める〈特別〉な存在」

「コピー……オリジナルかな?」

 緑の言葉に、睡蓮は光輝くステッキを手元で軽く振り回しながら微笑む。

「いえいえ、みなさんの力はみなさんだけのもの。私はちょっと真似をしてみただけです。でも、みなさんはそれを破れなかった。大変ですね、緑くん。でもお姉さんは知っていますよ。この程度で諦めるみなさんじゃないことを……ですから、次は防いでくださいね?」

 軽い声で、再びステッキの先に生み出された七色の光の刃が緑に襲いかかる。緑は小さな銀の針を何本も展開して、その刃をほんの少しずつ弾いて逸らしていく。一瞬で破られるのならば、その一瞬で勢いを逃がし、一瞬を何度も繰り返せばいい。力の調整と、喉元に届くまでの距離。決して簡単なことではないが、やらねばならないならやるしかない。

 光の刃は緑の首を掠めるように、勢いを増してステッキの先から放出されて、廊下に突き刺さっては消えていった。

「さすがです。けれど、油断はいけませんね?」

 防御に専念した緑はすぐには攻撃に転じれない。彼に密着していた睡蓮は、左脚を振り上げてその膝を緑の股間に向けてぶつける。全力で急所を狙った、単純な蹴り。

「……ぅ」

 緑は声にならない悲鳴を口から漏らして、その場にうずくまる。

「私、血を見るのは嫌いですけど、物理攻撃をしないなんて言ってませんよ? さて、動けなくなったところで今度は……」

「させない!」

 ステッキの先を緑に向けて何かをしようとしていた睡蓮に、声と炎の矢が飛んでくる。彼女は鋭い矢を軽く振るったステッキで弾き落として、声の聞こえてきた方――右の廊下の先に目を向ける。

「迅速な合流、お見事です。愛の成せる業でしょうか」

「あ、愛って……とにかく、好きにはさせない!」

 赤い炎の翼を広げ、水樹は何本もの炎の矢を断続的に、睡蓮目がけて放つ。睡蓮はその全てをステッキを回して作った薄紅色に光る盾で防いで、折っていく。

「緑くんが起きるまで、そしてみなさんが合流して、作戦を立てるまでの時間稼ぎ……それじゃあ、これも防いでくださいね?」

 炎の矢を防いだ薄紅色の盾から同じ色の光が輝き、廊下の先の水樹目がけて放出される。廊下の全てを埋め尽くす、極太の光線。施設の高い天井も意味はなく、逃げ場のない一撃。

「らぶりー☆こうせん! と名付けましょう」

 光が消えたところで、睡蓮は笑顔で言った。大きく広げた翼を前面に回し、赤き翼で攻撃を受け止めた水樹に向けて、嬉しそうに。

「あ、危なかったー」

 咄嗟に防御に力を回さなければ、耐えられなかったであろう高速の一撃。広範囲をカバーしつつも威力が落ちることはなく、反撃の隙もない。距離をとれば多少は有利に立ち回れると考えていた水樹だったが、その考えはすぐに改めることになった。

 すかさず攻撃に転じようとする水樹に、睡蓮は追撃はせず、廊下の反対側を確認する。小さな足音が耳に届き、角を曲がって現れたのは茜だった。

「挟み撃ちですね。それに……」

 足元でうずくまっている緑をちらりと見る。急所への一撃で行動不能になっていた緑も、そろそろ復活しようとしていた。左右からの攻撃に、隙を見せれば緑も動く。

「えいっ」

 睡蓮はステッキを振って、光の膜でその身を包んでいく。水樹の炎の矢と、走ってきた茜の投げた細長い棒のようなものがそれに当たると、膜は破けて睡蓮の姿も消えていた。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 駆け寄ってきた妹と、心配そうな顔で自分を見つめる水樹に、緑は笑顔を返す。

「ああ。けど、困ったね」

 そしてすぐに、笑みは苦笑に。睡蓮がどこに消えたのか。直接対峙して理解した彼女の実力から、この状況が不利と判断したとは思えないだけに、喜んではいられない。

「合流、急がないとね!」

 水樹の言葉に兄妹は頷く。睡蓮が施設のどこに移動したのかはわからない。だが、睡蓮が次に現れる場所は自分たちの前でなく、他の三人の誰かの前であろうことは、簡単に予測できることだった。

「本当、根源様は昔から神出鬼没ね」

 訓練用の部屋の一つ、大きな訓練部屋。どこからともなく現れた睡蓮に、阿裏奈は緩く構えたまま言った。

「今日は偶然ですよ? やっぱり広い部屋の方が、みなさんも戦いやすいと思って」

 微笑みを浮かべる睡蓮に、阿裏奈は黙って数十体の分身を作って取り囲む。

「それまであたし一人で耐えろって……ふう、面倒くさいけど、やらないとね」

「その意気です。大丈夫ですよ、織乃ちゃんの目もありますし、きっと数分です」

 分身から放たれる様々な光の攻撃――槍や鞭、球、接近した分身の蹴り――を、笑顔で、右手のステッキを操るだけで、軽やかに防ぎながら睡蓮は言う。

 ステッキを阿裏奈に向けて、数十本の光の束が彼女目がけて放たれる。防がれるのも、反撃されるのも、全て予想していたこと。阿裏奈は短い光の刀を左手に、その光を払う。睡蓮に近づきながら、長い光の刀を右手に生み出して、自らの後方に生み出した分身には弓矢による援護を行わせる。

 笑顔で待ち構える睡蓮。当然、この攻撃も防がれるのだろうが、近づくまでの間に数秒の時間は稼げる。

「これを数分……ねえ。あんたたち、早く来なさいよ!」

 施設の壁一枚くらいは越えられるであろう大声で、阿裏奈は他の五人を呼んでみた。

「ふふ、融和を覚えた阿裏奈ちゃんなら耐えられますよね? 根源様――睡蓮様に見せてください、阿裏奈ちゃんの成長を」

 睡蓮の手加減はほんの少し。不意討ちにならないように、部屋の扉方向への攻撃はちょっと弱めるだけ。もちろん、その前に阿裏奈がいれば全力で攻撃が行われるので、それを弱点として突くことは不可能だった。

「聖歌、そっちは?」

 隣でほうきを構える巫女装束の少女を横目に、織乃が聞く。聖歌は小さく頷いて答え、同じく漆黒の剣を構える少女を横目に聞く。

「そちらも?」

「視界良好よ」

 融和を介して簡易的に情報を交換して、二人は一旦構えを解いた。影の察知を得意とする聖歌と、その目で多くの動きを把握できる織乃。こういうときのために訓練しておいたことが、影の根源という最後の敵を相手に役に立っていた。

「位置は全て把握した。あとは……いえ」

「睡蓮、動きましたね」

 転移されてすぐに二人は合流できたが、近くに他の仲間や根源の姿はなかった。そこでまずは状況を把握して、仲間の多い所に合流するつもりでいたのだが、緑、水樹、茜の三人が集まろうとしていた廊下にいた影の根源は、一瞬のうちに訓練部屋に移動していた。

 緑たちのいる場所と、阿裏奈と睡蓮のいる場所。そして今、自分たちのいる場所の位置関係から、二人はまず緑たちとの合流を急ぐことにする。廊下からどの方向に移動するか、それ次第では六人の合流に時間がかかる可能性が高い。阿裏奈が一人になってしまうが、三人で戦ったとしても、緑たちの合流が遅れればおそらくその前に勝負は決する。

 二人は迅速に移動しつつ、聖歌の力で合図を送って緑たちと素早く合流。五人が揃った状況で言葉は要らず、先導する織乃と聖歌に続いて緑たちは走り、阿裏奈のいる部屋に到着した。

「みなさん、お早いですね」

「あんたたち、少し任せるわよ。あたし、疲れたから」

 ステッキによる軽い殴打――見た目は軽いが、当たれば一撃で相当なダメージを負うであろう渾身の一撃を、光の盾で防いで阿裏奈は睡蓮から距離をとる。

 全力で戦い、大きな傷を負うことはなかったが、融和していても一対一で影の根源と戦った消耗は、影の塊と融合した阿裏奈であっても大きい。五人は頷く時間も惜しんで、水樹が水色の翼を広げて氷の壁を作り、部屋の中央にいた睡蓮を包囲するようになだれ込む。

「包囲されてしまいました。お姉さん、守りに入りますね?」

 睡蓮は攻撃の手を止めて、ステッキ片手に守りの構えをとる。隙だらけに見えて、本当に隙だらけの構えだが、それでも彼らの攻撃は守れるという余裕の構え。

 緑たちは慎重に、かつ迅速に守りを破るための攻撃を開始する。反撃の心配が少ないことから織乃がある程度まで接近し、緑は特別な網を投げつけ、その周囲には水樹が氷の檻を作り、茜と聖歌はそれらの補助に集中する。

 睡蓮がそれらを軽くステッキを振るうだけで払った一瞬に、織乃が距離を詰めて一撃。

「くすっ」

 しかしその一撃は、一笑のもとに睡蓮に受け止められる。ステッキは使わず、左手で直接というのは多少の効果があったといえるが、届かないのでは意味がない。

 素早く退いた織乃を追撃はせず、睡蓮は再び守りに入る。それから緑たちは五人で何度か攻撃を加えてみたが、その全てを睡蓮は余裕の笑顔で防いでいった。

「さて、そろそろでしょうか?」

 睡蓮がそう口にした直後に、光の槍が彼女の顔を目がけて高速で飛んでくる。睡蓮はそっと首を動かすだけでそれを回避し、ついでに壁に突き刺さろうとする光の槍にステッキを振るい粉々に破壊してみせる。

「誰かさんの気まぐれのおかげでね」

 呆れた顔で、光の槍を投げつけた阿裏奈が言った。

「だって、そうしないと阿裏奈ちゃんが無理しちゃいますから。そんな状況で私が勝っても嬉しくないですし、みなさんに力の差を見せつけるためにも、正面から圧倒的な力で納得させるのが一番でしょう? もっとも、ここまでのお遊びで終わるようなら、その必要もなかったと思いますが……期待通りでお姉さん、嬉しいですよ」

 いつもの微笑みを顔に浮かべて、雰囲気も変わらない睡蓮。だが確実にステッキには影の力が集まっていて、そこから放たれた影が六人を捕らえようと伸びる。緑たちが防御している間に睡蓮は楽しそうにステップを踏んで、氷の上でも滑っているかのような素早い動きで部屋を駆け回り、無造作にステッキを振っていく。

 振ったあとには小さな青白い光が生まれて、再び睡蓮が部屋の中央に戻り、足を止めたと同時に全てが同時に爆発する。一つ一つは小さな爆発だが、無数に設置されたものが一気に爆発したことで緑たちは足を止め、防御するしかない。部屋の中に爆発の少ない空間はなく、睡蓮自身の周囲でも激しい爆発を起こしていた。

「お姉さん、もう守りはやめますね。さあみなさん、私の攻撃をかいくぐって近づければチャンスかもしれませんよ?」

 それが不可能ではないとわかっていて、それでもなお笑顔を崩さない睡蓮。今までの彼らの攻撃を考えると、かいくぐって何度攻撃を仕掛けても彼女を倒すには至らない。そのこともわかっているからこその、余裕の笑み。だが彼女に油断は一切なく、彼らが近づいてくると絶妙に距離をとって、一撃さえも許さない。

 軽やかに攻撃を仕掛けてくる睡蓮に、緑たちは融和を高めて対抗する。雷の剣を片手に緑が襲いかかり、同時に水樹も雷を周囲に放って、そこに接近した聖歌が軽やかにほうきを振って攻撃を仕掛ける。

 織乃や茜、阿裏奈らもまた別の方向から攻撃を仕掛けて、彼らの攻撃は睡蓮に少しずつ近づいていき、掠ったとわかってから直撃するまでの時間はほんの数秒だった。

 いくら動きが速くとも、不規則であろうとも、織乃の〈目〉からは逃げられない。問題はそれに反応が追いつくかだが、それも戦い続ければ次第に慣れてくる。

 とはいえ、緑たちが睡蓮に攻撃を与える間に、彼らが彼女から受けた攻撃は決して少なくはない。現状では双方とも動きに支障はない程度だが、このまま同じように戦い続ければどちらが先に倒れるかは目に見えている。

「ふふ、どうします? 私はこのままでもいいですけど、ずっとこれなら退屈ですし、各個撃破に切り替えちゃいますよ?」

 言うが早いか、睡蓮はステッキを緑に向けて、彼の全身を覆うほどの光を連続して放つ。爽やかな黄緑色の光で、絶大な威力の攻撃を緑は守らず回避に徹する。その間に他の五人が睡蓮に攻撃を加えて、緑への集中攻撃は一旦止んだ。

「また俺ですか」

「緑くんは特別ですから、特別扱いです。嬉しいですか?」

 緑の言葉に、睡蓮は彼にだけ笑みとステッキを向けて尋ねる。

「いえ、全く。けど、このまま俺だけを的にしてくれるなら、こちらとしては動きやすいよ」

 無言でステッキの先から放たれた新たな光を、緑は〈特別〉な鏡で反射してみせる。守るよりも回避するよりも消耗の激しい反撃だが、それを回避する隙に織乃の漆黒の剣と、阿裏奈の光を纏った蹴りが同時に睡蓮を襲って、彼女をよろめかせた。

「なるほど。でも、緑くんが倒れるのが先ですよ?」

「わかってるさ。睡蓮さんを倒すための特別な〈特別〉は――まだ思いついてないけど、俺たちが倒れる前には間に合わせてみせるよ」

 自信を込めた声で言った緑に、睡蓮は微笑みを返す。ついでのように、ステッキからは何十本もの光を部屋の天井に向けて放ち、頭上から緑に向けて光を落としていく。回避する緑を追いかけるように光は孤を描き、彼を追尾する。威力こそ若干落ちてはいるが、防ぐのも容易ではなく、同じように反射しても天井に向かうだけで睡蓮には届かない。

「緑くんに、できますか?」

 睡蓮からの確認に、緑は笑顔で答えた。

「俺だけじゃないよ。茜に水樹、織乃や聖歌、阿裏奈と一緒にやるんだ。睡蓮さん――影の根源がどれほど強くても、無敵で不死身ってわけでもないみたいだし」

 確信が持てたのは先程の、織乃と阿裏奈の攻撃で彼女がよろめいたとき。攻撃が通じる相手であれば、彼の――彼らの影の力を持ってすれば、何らかの対抗策は見出せるはず。この激しい戦いの中でも、高めた融和である程度の意思疎通を行うことはできる。茜の〈妄想〉を活用した、影を介しての簡易的な作戦会議。無論、それだけには頼らず、近ければ声で、余裕があれば身振り手振りも活用する。

 今のところ、方向性も見えていない段階ではあるが、手掛かりが得られたことで段階は確実に進んでいる。このまま戦い続ければ――戦い続けられれば、きっと勝機は見える。

 そのためには戦いの中で、さらなる手掛かりを掴む必要がある。決定的な弱点が見つかるとは思えなくとも、より効果的な攻撃手段を見つけるために。

 緑は数十の光を回避しながら、徐々に睡蓮から距離をとって壁際に移動する。彼を追尾する光も、壁を突き抜けてまで彼を追尾はしない。もちろん、移動範囲が狭められる分、緑の行動にも制限がかかるが、攻撃を引きつけるだけならこの方が時間を稼げる。

 睡蓮は微笑んでステッキを振り上げ、緑に向けていた光を全て上空に集める。茜や水樹、阿裏奈らの攻撃は、緑の方へ少しずつ接近しながら完璧に回避する。

「ふふ、では緑くん? これは防げますか?」

 ステッキを振り下ろすと、天井付近に集まっていた光は緑の上に落ちていく。彼を包み込んだ光は薄い緑から淡い青色に、微かに光の色を変えて輝き、緑は咄嗟に防御の構えをとるが、今のところ眩い光で視界が奪われるのみ。

 そして、彼が攻撃の意思を感じた瞬間、光は弾けてその場には緑の形をした薄い影の人形が残るだけ。それが消えたときにはそこに緑の姿はなかった。

「緑が……消えた?」

 姿を消した仲間の――好きな人の姿に、水樹は顔に若干の動揺の色を見せる。

「お兄ちゃん!」

 茜も続き、素早く兄の場所を察知する。妹が見つけるより早く、緑の現在位置を把握した聖歌は天井を見上げていた。

「では、私はお先に待っていますね。みなさんも急がないと、色々仕掛けちゃいますよ?」

 ステッキを回してオーロラの光で自身を包み、緑と同じように姿を消す睡蓮。演出は違っていても、やっていることは単純な転移。

「追いかけます!」

 言葉とともに、茜も兄のいる場所――施設の屋上への転移を開始する。五人まとめて、彼女たちは淡い雪が溶けるように部屋から姿を消した。

 睡蓮に屋上へと飛ばされた緑は、縄で両腕と両足を縛られ、拘束された状態で飛ばした本人と仲間たちの姿を見ていた。転移ついでの拘束。ついでといっても強固なもので、緑が解くより早く他のみんながやってくる。

「あれ? 緑くん、まだそのままですか?」

 きょとんとした顔で彼の姿を見つめる睡蓮。他の五人の視線も彼に集まって、特に冷ややかな視線を向けていた織乃が口を開いた。

「……何してるの?」

「はは、ちょっとね」

 緑は影の力を集中して縄を解くと、笑顔で立ち上がってみせた。

「お兄ちゃんが……喜んでる……」

「ひょっとして、そういう趣味が?」

 茜と水樹がひそひそと感想を口にする。緑は聞こえていてもそれを無視して、睡蓮の顔をじっと見ては言葉を続けた。

「感謝します、睡蓮さん」

「緑くん……」

 その笑顔の意味を何となく理解したのだろう。睡蓮は微笑みながらも、からかうような言葉は口にしないで彼の言葉を待っていた。

「おかげで、見つかりました。みんな!」

「あんたの変態行為に付き合う気はないわよ?」

「私は手伝うよお兄ちゃん!」

 正反対の言葉を口にしながら、阿裏奈と茜が彼の言葉に反応して融和の力を高めていく。織乃と聖歌の二人は言葉を待たずして同じことをやっていて、水樹もやや遅れて欠片の力を融和する。

「いいでしょう。受けて立ちますよ?」

 施設の屋上。緩やかな風が彼らの髪を揺らす中、睡蓮はステッキを前に構えて待機する。

「後悔しても、遅いですよ?」

 緑は駆けて、睡蓮のステッキから放たれる攻撃も気にせずに直進する。融和を極限まで高めて、自身に宿らせた多くの影の力。その力を影の根源を倒すための〈特別〉に変化させた彼には、牽制程度の――といってもまともに受ければ吹き飛ばされるくらいの威力だ――攻撃は通じない。

 その様子に睡蓮が咄嗟に影の力を高めて放つが、その頃には緑は既に至近距離まで到達していた。緑は特に身をかばうことなく、全身を覆う深く、優しく、純粋な影を突き抜けて、大きく一歩を踏み出した。

「……ぐ、これで!」

 緑は影の中で生み出した影の結晶を、凝縮された影の力を込めたそれを、睡蓮の腹部に全力で押し込む。影の結晶は睡蓮の体内に吸収されるように、影を薄れさせながら消えていく。

 そのまま倒れそうになる緑を、白く大きな翼を広げた水樹が抱えて救出する。最後の攻撃に耐えはしたものの、牽制のように通じていないわけではない。このまま反撃を受けたら危ない状況に、水樹が咄嗟に反応したのだが、もちろんそれには睡蓮も反応する。

「今のは……逃がしませんよ?」

 睡蓮はステッキを振るい、目の前を飛び抜けていった二人に影の力を放とうとする。

「……あら?」

 しかしステッキの先から、影の力が放たれることはなかった。

「ふふ、なるほど……これは、想像以上ですよ」

 そしてその理由を瞬時に理解して、睡蓮はいつもよりも輝きを増した、美しい微笑みを浮かべてみせた。

 一定の距離をとって着地した緑の前に、消耗した彼を守るように聖歌と茜が立ちはだかる。睡蓮の後方には阿裏奈と織乃の二人が待機して、彼女の行動を注視する。

「みなさんの影の力を込めた影の結晶が、影の根源である私の影と常に干渉。それも、私の使う力に反応して、ですか。緑くんの〈特別〉や茜ちゃんの〈妄想〉に、聖歌ちゃんの〈力〉も加わって、私の影と混ざって取り除けない――いえ、ここはあえてこう言いましょう」

 睡蓮は目を瞑って、言葉を区切ってから、ゆっくりと目を開いて頬を緩ませた。

「少年少女の愛の結晶が、緑くんの手で私の奥深くに届けられて、しっかり定着して……ああ、初めてですこんな感覚」

「ちょっと、変な言い方は」

 冷静な声で止めようとする緑の声に被さるように、少女たちの声が響いた。

「緑のえっち」

「変態」

「あんた……ま、最善策だとは認めるけど」

 水樹と織乃に続いて、阿裏奈が声を響かせる。

「お兄ちゃんと、私と、みんなの……」

「睡蓮」

 そして茜はそんな言葉を呟き、聖歌だけは緑ではなく睡蓮の名を呼んでいた。

「でも、緑くん? これでおしまいなんて、甘いことは考えていませんよね?」

 地面を蹴って、睡蓮は低く遠くに跳躍する。目指す先にいる緑たちに接近する睡蓮の速度はとても速く、戦い始めたときに比べて全く速度は落ちていなかった。

 間に入って彼女を止めたのは、ほうきを片手にした巫女装束の少女。軽やかに振り上げられたほうきを、睡蓮はステッキを振って受け止める。

「聖歌ちゃんは冷静ですね」

「当然です。それに……」

 睡蓮の背後から、漆黒の剣が襲いかかる。睡蓮は織乃の攻撃を紙一重で回避して、ステッキを突いては織乃の体を軽く吹き飛ばした。

「これは……」

 緑は驚いた声をあげて、消耗した影の力を回復しながら状況を確認する。

「ふふ、魔法少女すいれんの必須アイテム。ただのお飾りだと思ってました?」

 細長い一本のステッキで、睡蓮は織乃と聖歌の二人を相手にする。緑の守りは茜に任せて、水樹も空から炎や水で遠距離攻撃を仕掛けるが、それもステッキ一本に弾かれる。

 最初に生み出したステッキに固定された影の力と、影の根源そのものを構成する影の力。新たに放出される影は、緑の埋めた影の結晶が阻害できるが、元々の力に影響はない。

「だったら、今度はあたしたちの番よ」

 阿裏奈が数十体の分身を生み出し、光の束を放ち、光の槍を投げつけ、ステッキ一本では防ぎ切れないような波状攻撃を仕掛けていく。睡蓮が回避した先には聖歌が立ちはだかり、再び接近した織乃と聖歌の同時攻撃。

 睡蓮は前後からの攻撃を、空にステッキを掲げることで微かな影の粒を放出して、いとも簡単に防いでみせる。

「随分と、凄い力を固定したものね」

「ええ。それに、みなさんと同じように、回復もするんですよ?」

 回転しながら振られたステッキを、聖歌はほうきで受け止めて、織乃は後退して回避する。上空からは水樹の闇が降りて睡蓮の視界を奪い、それを払った直後に阿裏奈の大きな光が睡蓮目がけて飛んでくる。

 それを防いだステッキ目がけて、聖歌のほうきが軌跡を描き、七色の光の中で、織乃は漆黒の剣を振り下ろす。

「でも……これで!」

 織乃の、ここにいるみんなの全力を込めた一振りは、睡蓮の持つステッキを砕いて、影を薄れさせた。今の睡蓮には再び同じステッキを生み出すことはできず、追撃をその身体能力で回避するのが精一杯だった。

「むう……壊されちゃいました。仕方ないですねー」

 距離を詰めてきた織乃に、睡蓮は肩をすくめてみせる。その様子にも織乃が動きを鈍らせる様子はなかったので、睡蓮は直線的な一撃を紙一重で回避しながら言葉を続けた。

「お姉さんの負けです。もう抵抗はしないので、織乃ちゃん、やめてくれませんか?」

 その言葉に、織乃は攻撃を止めたが、構えは解かずに睡蓮の近くで武器に力を込め続ける。

「その必要があるとは思えないわ。抵抗がなくなっても、あなたを倒さないと私の復讐は終わらない。まさか、命乞いでもするつもり?」

 冷静に、冷徹に。織乃の言葉に対して、睡蓮はゆっくりと首を横に振ってみせた。

「まさか。でも、みなさんに一つ思い出していただきたいことがあるんです。影を追い払った英雄は、私の作り話でした。でもその前に、世界の武器の大半を影に呑み込んで、最初の希望を失わせた影は、本当の話ですよ?」

「で? そのときみたいに、自爆して道連れにするつもり? あいにくだけど、私はそんなの怖くない」

 あくまでも自分の意思を貫き、武器を収めない様子の織乃に、睡蓮は笑みを崩すことなく言葉を返した。

「織乃ちゃんはよくても、他のみなさんはどうでしょう?」

「それは……」

 言葉には詰まるが、武器に込めた力は緩めない。

「ふふ、冗談ですよ。今のみなさんなら、私が自爆したとしても無事でいられます。影の兵士とは違い、圧倒的な力を持つ影の根源の、全ての影が世界を丸ごと影に染めたとしても、みなさんだけは助かります」

 睡蓮の言葉は六人全員の耳に届き、その言葉の意味を理解した少年少女は沈黙する。

「ちなみに、みなさんの結晶も含めての放出ですから、弱まりもしませんし止められもしません。さあ織乃ちゃん、お話はおしまいですよ。結晶の力で私からはできないですが、その剣を私に刺せば全てが――織乃ちゃんの復讐は成されます」

「……そうね」

 織乃は少しの間を置いて答えながら、構えを変えて剣先を睡蓮に向ける。このまま一突きすれば、全てを終わらせられる。その覚悟と、意思を漆黒の剣に込めて、織乃は言った。

「影への復讐。それが私の全て。影に染まったものはもう戻らない。だから、復讐を成した世界がどうなろうと、私の復讐心は鈍らない。今すぐにでもこの剣を突き立てて、終わらせてしまいたい……けど、私がここまで来れたのは、みんなとの融和の力があったから」

 ほんの少し、最後に頬を緩ませて、織乃はさらに言葉を口にした。

「だから――緑、水樹、茜、聖歌、阿裏奈。みんなの判断も待たせてもらうわ。その判断がどうなろうとも、私は文句を言わずに従う。でも、一つだけ。影の根源を倒す役目は、絶対に譲らないから、それは覚えてもらえる?」

 織乃は視線を睡蓮から逸らさず――万が一にも逃がさないため――言った。それを受けた緑たちは沈黙を保ったまま、睡蓮の告げた言葉に対する決断を迷っていた。

「はあ、全く、睡蓮様は最後まで……それに織乃、あたしにも判断を求めないでくれる? あたしは影に襲われてからずっと一人で、影と一緒にいたんだから。あんたたちと出会ってからは少し違ったけど、それだけよ。あたしの世界にあるのは、あたしと、影と、あんたたちだけ。それを守るためなら努力はするけど、それが失われないならどんな判断でも受け入れるわ。悪いけど、中途半端と言われようとも、あたしにこれ以上の判断はできないわよ?」

 沈黙を破り、最初に口を開いたのは阿裏奈だった。彼女が言葉を声にしたことで、他の四人も順番に考えを声に出していく。

「ここで睡蓮さんを倒せば、世界に残るのは六人だけ。新たな世界の最初の男女。お兄ちゃん一人じゃ大変だから、私もお手伝いをして、それはとっても嬉しいですけど……どうせなら睡蓮さんの体も私のものにしたいです」

 可愛らしい笑顔で、茜はいつものようにそう答えた。

「茜らしいね。俺としても、睡蓮さんの体は別にして、できるならその方がいいかな。俺がなりたいのは英雄であって、神話の存在ではないんだから」

 妹の言葉に微笑を浮かべて、緑が続く。

「私は、緑がいるなら、その……でも、ここで倒さないと終わらないなら、そうしないといけないなら、終わらせるべきだと思う。けど、たくさんの人を犠牲になんてしたくないよ」

 水樹もつられるように、まだまとまっていない考えを声にした。

「聖なる巫女は悪しき影を祓い、清めるために存在するもの。そのためであれば、犠牲を払うことも厭わず、それでも世界から影は消える。しかし、全ての影を消すのであれば、影と融合した私たちの存在も、また影と言えます。ですから……」

 聖歌はほうきを両手でしっかり握って、ゆっくりと睡蓮に歩み寄る。

「睡蓮。あなたと私たちは、一緒に生きて、一緒に消えるべきものと私は考えます。未だ世界に散らばる影、それらは全て根源の元に戻してください」

「ふふ、言われなくてもそうするつもりでしたよ? その方が、綺麗に終わりますから」

 睡蓮が微かな笑みを浮かべて答えた直後に、どこからともなく影が現れ、睡蓮の体に吸収されていく。全ての影が集まっても、置かれている状況は変わらない。影の根源の圧倒的な影に小さな影がいくら集まろうとも、総量はほとんど変わらないのである。

「復讐と人々の命、全てを守る方法を――いかがでしょう、織乃?」

「そうね。悪くはないと思うけど、問題も多いわ。まあ、寿命の問題くらいは考えたんでしょうけど」

「はい。私の見立てでは、私たちの寿命と睡蓮の寿命はそう変わらないはずです」

 織乃の言葉に、聖歌は静かな声で言葉を返した。

「ま、私はそれでもいいわ。最後の影を、この身が尽きるまで見張り続けて、復讐を終えるというのも、ね」

 言いながら、織乃は聖歌に睡蓮の見張りを任せて、視線を後方に向ける。阿裏奈は気怠そうに、緑と水樹はしっかりと、頷く三人。茜は曖昧ながらも、一応は頷いてみせた。

「問題はないみたいね。じゃあ、睡蓮さん? あなたは死ぬまで、この島に閉じ込めさせてもらうわよ。資金とか食糧とか、設備の維持とか気になることは多いけど……ま、何か問題が起きて持続できないようなら、私がいつでもこれで終わらせてあげるから、みんなで努力しましょう」

 構えていた漆黒の剣を掲げて、睡蓮の額に向けて軽く振ってみせる織乃。額の直前で止められた剣先を引いて、彼女は剣を下ろした。

「ふふ、それでいいんですか? 負けた私には意見する権利はありませんけど、このまま一緒に暮らしていると、考えも変わるかもしれませんよ?」

「それも問題の一つね。ま、安心しなさい。私の復讐心は消えないから」

 漆黒の剣を片手に、真剣な表情で織乃は睡蓮の目を見つめる。

「私たちはいいですけど、いっぱい生まれる子供たちも大変ですよね」

「こ、こど……」

 平然と口にした茜の言葉に、水樹が動揺する。

「ずっと一緒に暮らして、ずっとしない……なんてことはないですよね」

 茜は水樹を横目にそう言って、次に視線を向けたのは兄の方。

「お兄ちゃんも、返事するんでしょ?」

「はは、こっちに来るか」

 緑は苦笑しながら茜を手招きして、小さな声で耳打ちする。茜は興味深そうに何度か頷いてから、水樹に笑ってみせた。その笑みの意味ははっきりとはしなかったが、少なくとも自分にとって悪い報告ではない……そう判断して、水樹もとりあえず笑みを返しておいた。

 そんな様子に阿裏奈は肩をすくめてから、睡蓮に手を伸ばして声をかけた。

「そういうことらしいわよ。さ、睡蓮様、一緒に帰るわよ」

「わかりました。嬉しそうですね、阿裏奈ちゃん」

 差し出された手に優しく触れて、屋上から飛び下りようとする阿裏奈についていく。その途中で睡蓮の言った言葉に、阿裏奈は面倒くさそうな顔をしながらもはっきりと答えていた。

「ま、あんたも影――あたしの世界にとっての、大事な一つだからね」

 世界を呑み込み、世界を染めた影は、倒された。

 六人の少年少女――新たな英雄によって、世界から影は消え、残った人々は失った物の多さに改めて衝撃を受けながらも、逞しく生きていくことだろう。

 影を追い払った英雄は姿を消し、誰もその姿を知らないままでも、希望の象徴として彼らの存在は人々の心を勇気付けていた。しばらくして、その正体を確かめようとする者も多く現れたが、手掛かりはほとんどなく、その数はすぐに少なくなった。

 少年少女の暮らした――暮らし続ける島の情報は、公式にも、非公式にも残ってはいなかった。支援部隊に救出されたという人々や、元支援部隊の人間、訓練施設で欠片と融合した少年少女といった、関係者にあたってみても手掛かりは得られないのである。

 その裏には、影を追い払った新たな英雄たちの、相応の苦労もあったのだが……それを世界に暮らす人々が知ることは、近いうちにはないであろう。

 ごく僅かな人間は真実を知ることになり、その真実は伝承としてか、物語としてか、何らかの形で残って、世界の人々に広まる可能性はあるとしても、それは未来の話である。

 影を追い払った六人の少年少女と、彼らと一緒に死ぬまで生きる影の根源。日本のどこかにある小さな島で、真実を知る彼らに育てられる幾人かの少年少女は――彼らが影に襲われた頃と同じように――まだまだ幼いのだから。


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