メダヒメ様に祈りと信仰心は恋心

第七話 メダヒメ記念大会が終わって


 メダヒメ記念大会の表彰式、国王ヴェスパよりメダヒメメダルを授かったサクヤは、最大の歓声に応えるように左手を上げて大きく振りながら、右手では優しく大切にメダヒメメダルを包んで笑顔を見せていた。

 隣に並ぶミコトはコノハと手を繋いで治療を受けながら拍手をして、反対側ではリオネとナノも同様の賞賛を今大会の優勝者に送っていた。

 表彰式を終えて戻ったミコトとサクヤは、参加者控え室を抜けて治療室へ向かう。ナノは終了間際に王妃シーナに呼び止められて、温泉についての感想を詳しく聞かれていた。リオネは国王に深い礼で挨拶をし、今回の結果について謝罪の言葉を述べていたが、国王の表情は柔らかく、彼の王国競技場トップの地位は今後も揺るがないだろう。

 ベッドに寝かせたミコトとサクヤの間に座り、両手でまとめて二人とも癒すコノハは、真っ直ぐに姉の顔を見つめて文句を言っていた。

「もう、お姉ちゃん。あんなことしなくても、最後は勝てたよね?」

「大会を盛り上げるためよ。仕方ないじゃない」

「そ、そうだけどー。ミコトさん、なかなか起きなかったんだから」

 表彰式の開催は予定通りに行われたが、その直前までミコトは意識を失ったままだった。

「コノハの力も考えて、手加減はしたでしょ?」

「むう」

 コノハは頬を膨らませて、反論はしない――できなかった。確かにサクヤの言葉も事実であって、ミコトの回復が間に合ったのはそのおかげでもある。

「膨れたコノハも可愛いな」

「そんな。ミコトさんも格好良かったよ」

 ミコトに微笑みかけられて、コノハは照れた表情でミコトの顔をじっと見た。

「あんたたち、約束覚えてる?」

 そのまま見つめ合う二人に、サクヤは呆れた顔で声をかける。

「ああ。すまないコノハ。だが、次は勝ってみせる」

「はい」

「次、ね。ま、いいわ。それよりも……メダヒメ様メダヒメ様!」

「一度でいいですよ?」

 サクヤの呼びかけに応じて、彼女の胸元が光ってメダヒメが姿を現す。サクヤの顔の横に現れたメダヒメは、いつもと変わらず可愛くふよふよしていた。

 ベッドの並べられた治療室には、今はミコトたち三人しかいない。大会側の用意した治療者も、コノハという優秀な治療者がいれば必要なく、意識を失ったミコトを運んだことで役目は終えていた。

 利用を終えたら受付のリコリッタに報告すれば、それ以外は自由に使ってもらって構わないとの約束をサクヤが部屋の主に取り付けたのは、ミコトが意識を失っていたときである。

「二枚目ですよ。今入れますね!」

 サクヤは右手に包んでいたメダヒメメダルを、首筋から胸元に滑り込ませる。

「はい。別に入れなくてもいいのですが、二枚揃いましたね」

 メダヒメがそう言うと、彼女の体が淡く輝いていく。その輝きは瞬間的に大きくなって、柔らかく煌めきは弾ける。そして再び姿を現したのは、煌めく髪、輝く瞳、ロングウェーブの小さな美少女。ぴったり二メダルの、大きくなったメダヒメだった。

「メダヒメ様が大きく……今すぐ、結婚してください!」

「お断りします」

 サクヤの求婚に即答するメダヒメ。一メダルから二メダルになっても、当然メダヒメはメダヒメである。

「じゃあ、私の傷が癒えるまでお傍に!」

「はい。ええと……五分くらいですね?」

「全力でがんばるね!」

 メダヒメとコノハの言葉に、サクヤはほんの少しだけ落ち込んだような顔を見せながらも、ゆっくりと大きく頷いて答えた。

「仕方ないですね。どうぞ、メダヒメ様」

 サクヤはベッドに横になったまま、少しだけ太股を広げてメダヒメを誘う。

「……そこには入りませんよ?」

「だめですか?」

「だめです」

 食い下がるサクヤに、即答するメダヒメ。もう一度視線で問いかけてから、無表情の沈黙という答えを返されたサクヤは、ようやく諦めて太股をそっと閉じるのだった。

「ところであんた、まだコノハのことを諦めてないみたいだけど」

 間にコノハを挟んで、サクヤはミコトに声をかける。

「もちろんだ」

「そ。だったらあんたはこれからも、私たちと一緒にいるつもりなわけね」

 サクヤが言うと、コノハの視線もミコトに向けられる。二人の視線に応えるようにミコトは頷いて、はっきりと答えた。

「ああ。メダヒメメダル集めにも協力してやるさ。もっとも、お前さえよければだが……最初からそのつもりだったんじゃないか?」

「どうして?」

 ミコトの言葉にサクヤは確認するような声色で尋ねる。ミコトも予想していたとばかりに、用意していた答えをすぐに返す。

「今回のメダヒメ記念大会――予選こそ協力はしたが、お前の実力なら一人でも無事に優勝できたはずだ。なのにわざわざ俺を誘ったのは、もう一つの目的があったから。一人で六十枚のメダヒメメダルを探すのがどれだけ困難なことか、それを考えた上でな」

 考えてみれば単純なこと。推理にしても簡単すぎる内容を、サクヤは笑顔で聞いていた。

「よく分かってるじゃない。ただ、一つだけ大きな誤算もあったわ」

「誤算?」

 推理が的中したことを示してから、続いた言葉にミコトは首を傾げる。その反応にサクヤは呆れた顔を二人に見せてから、ゆっくりと言葉で説明した。

「本当は私の魅力で仲間になってもらうつもりだったんだけどね、好みじゃないと言われるわ、妹に惚れるわ、大誤算よ。元々コノハを一人にして旅立つ気はさらさらなかったけど、本当に困ったものね」

「お姉ちゃんが認めてくれれば……」

「大事な妹を簡単には任せられないわよ。それに認めたら認めたで、あんたがコノハに何するかは想像がつくし……私のメダヒメ様が遠のくじゃない。私の目標は生きているうちに、メダヒメメダル六十枚を集めることじゃないの。若いうちに全部集めて、あとはゆっくりメダヒメ様と……あ、ミコトもいるんだっけ」

 思い出したように口にしたサクヤの言葉に、ミコトは何をしようとしていたのか尋ねることも忘れ、やや驚いた顔でサクヤを見つめる。

「何? 私の優しさに気付いて好みが変わりでもしたの?」

「いや、お前が俺のことを名前で呼ぶのは珍しい気がしたから」

「そうだったかしら?」

 返ってきた答えに、サクヤは小さく首を傾げる。彼女がはっきりミコトの名を声にして呼んだのは、確認や紹介で口にしただけの二度を除けば、王都メリトリアの宿で誘った日の一度きりである。

「……ああ、確かにそうね」

 それを思い出したサクヤは不敵な笑みを浮かべて、優しい声でミコトに言った。

「はい。強くて綺麗で可愛いサクヤ様。言いなさい」

「サクヤ」

 そしてミコトも改めて、サクヤの名を言われるままにだいぶ省略して呼ぶ。こちらも初めてではないが、コノハの名を呼んだ回数に比べれば遥かに少ない。

「と、そろそろ宿屋に戻りましょうか」

 何事もなかったかのようにサクヤは言って、ミコトとコノハも頷きリコリッタに報告してから宿屋に戻ることにした。二人は優勝者と準優勝者、ゆっくり街を散策すると色々忙しいことになるが、真っ直ぐ宿屋に戻った彼らへの反応の多くは声をかけるくらいであった。

 宿の一室に戻った三人の中、最初にそれに気付いたのは真っ先にベッドに飛び込もうとしたサクヤだった。彼女の眠るベッドの上に置かれた一枚の紙を手にとり、折られていた紙を開いて中身を確認する。書かれていたのは、手書きのやや幼い文字。

「今夜十二時、王国競技場で待っています」

 そもそもどうやってここに置いたのかは深く考えず、サクヤは手紙の文面を読み上げる。続く文章はほんの一行。

「二枚のメダヒメメダルを忘れたら怒ります。可愛らしいお手紙ね」

「可愛らしいって……」

「お姉ちゃん、行くの?」

「行きますよね、サクヤさん」

 ふっと現れたメダヒメを含め、三人がそれぞれの反応を示す。手紙を読み終えた時点では迷っていたサクヤだったが、メダヒメの言葉に心は決まった。

「もちろんですメダヒメ様。指定は私だけだと思うけど……ま、一人で来いとは書いてないから、ミコトとコノハは……ここで二人きりにすると危ないから一緒に来てもらえる?」

 何度か思案を見せながらのサクヤの決定に、ミコトとコノハは素直に従う。宿屋に届いた差出人不明の怪しい手紙。頼まれなくとも、二人から同行を申し出るつもりだった。

 宿でゆっくり休息している間に、指定された時間が近づいてくる。メダヒメ記念大会が終わった盛り上がりも落ち着き、外も静かになった頃。約束の時間にちょうど間に合うように、サクヤを先頭に彼らは再び王国競技場へと向かった。

 受付で待っていたのは、ナノとリコリッタの二人。受付の中で楽しそうにしているのがナノで、受付の外でミコトたちを迎えたのがリコリッタである。

「こんばんは。王国競技場の門は開けていますよ。詳しい事情は分かりませんが、姫として開けさせました」

 受付の中から笑顔でナノが挨拶して、彼らを競技場内へと促す。

「邪魔が入らないように、手回しもしていたみたいね。ありがとうナノ。それにリコリッタさん。さ、行きましょうか」

 簡単に感謝の言葉を声にしてから、サクヤは真っ直ぐに王国競技場に入り、参加者控え室を抜けて競技会場へ向かう。丁寧に道筋は仄かな光で照らされており、それがメダルの力によるものであることは疑いようもなかった。

 果たして競技会場で待っていたのは、二人の人物。

 一人は漆黒の髪と暗闇の瞳、セミショートカットの神秘的な少女ミルティア。

 もう一人は、ミルティアよりも五メダル小さい四十メダル。ミディアムロングウェーブの煌めく髪と、強気な意志を感じさせる揺らめく瞳の、幼い少女だった。

「ぴったりですね。お待ちしていました……サクヤさん」

「ふふふ、待ってたわ! メダヒメお姉様をさっさと出しなさい!」

 ミルティアに続いて、隣の幼い女の子が元気に叫んだ。それに応えるように、サクヤの胸が光ってメダヒメが姿を現す。

「出ましたよ。こんなに手の込んだことをして、どうしたのマホヒメ?」

「むー。分かってるくせに。今日こそ私の魔法で、メダヒメお姉様に勝つの!」

「魔法では勝てませんよ?」

 高らかに宣言したマホヒメに、メダヒメはすぐに答えた。

「今日は普通の魔法じゃないもん。ミルティア!」

「はい。マホヒメ様」

 ミルティアは一枚のメダルを右の手のひらに乗せ、軽く握って力を行使する。そのメダルから放たれたのは、太陽でも崩壊でもなく、大きな光の魔法だった。

「光、じゃないみたいね」

 サクヤは冷静に、心を込めた声を衝撃に変え、光を迎撃する。続けてミルティアから放たれたのは、大きな炎と、鋭い水流、さらには熱を纏った太陽までもが同時にサクヤたちを襲っていた。

「む」

「こっちにも!」

 サクヤはそれを再び衝撃で迎撃し、ミコトはコノハを守るように吸収の力を込めた雪の壁と海の壁を重ねて防御したが、それらは衝突した炎と水であっさりと崩壊した。

「な……この力、凄まじいぞ」

「ミコトさん、大丈夫?」

「ああ。狙っているのはサクヤだから、こっちに来るのは威力は落ちているが……この力、決勝で戦ったサクヤ以上だ」

 ミコトの言葉にコノハが驚きの表情を見せる中、サクヤとミルティアは見つめ合い、またメダヒメとマホヒメも見つめ合って言葉を交わしていた。

「ふふふっ。驚いた? 驚いたでしょ? メダヒメお姉様の隙をついてこっそり紛れ込ませた、第三段階の『魔法』のメダル! それをがんばって大きくしたマホヒメ教の一番の信者、魔法も得意でメダル力も高いミルティアが使えば、メダヒメお姉様にだって勝てるのよ!」

「マホヒメ様……油断は禁物ですよ」

 可愛らしい声で元気にまくし立てるマホヒメに、ミルティアは優しく声をかけながらも次の魔法の準備をする。放たれた特大の岩は真っ直ぐにサクヤを狙い、それをサクヤは心を込めた蹴りで砕いてみせた。が、ミルティアは同じ岩を高速かつ連続で飛ばし、確実にサクヤを追い詰めていく。

「さあ、降参するなら今のうちよ! 怪我したくなかったら、さっさとメダヒメメダルを私に渡すことね! メダヒメお姉様のメダルは私がもらうのよ!」

 小さな体から左手を真横に伸ばして、ミルティアの攻撃を一旦中断させながらマホヒメは元気いっぱいに言葉を届ける。サクヤの肩に乗ったメダヒメはサクヤを見上げ、サクヤはその言葉と視線に応えて微笑みと声を飛ばす。

「事情は大体理解したわ。まずは、勝てばいいのね」

「サクヤ、俺も手伝うぞ」

 後ろからかけられたミコトの声に、サクヤはゆっくりと首を横に振る。

「心配無用よ。メダヒメ様を守るのは私」

 サクヤは言うと、一度深呼吸してから声を――旋律に乗せて声を響かせた。

「ひけ! すべてのにんげんよー! しりぞけ! へんたいどーもよー!」

 競技会場を包み込むのは、メダヒメ様への祈りの歌。突然の行動にサクヤとメダヒメ以外の全員がきょとんとした顔を見せるが、構わずサクヤは歌を旋律に乗せていく。

「めだひめさまは わたしのものよ ずっと きっと いっしょーにいたい」

 おもむろに放たれたミルティアの鋭く尖った氷の槍は、旋律に弾かれ消えていく。

「わたしのこころは あなたのとりーこー」

 そしてその旋律はミルティアにまで届き、

「はじめてだってー ぜんぶささげちゃう(めだひめさま!)」

 届いた旋律に阻まれ、ミルティアの準備した魔法の素は全て消されていく。

「こえかけられたらー どきどきしちゃってー ずっと もっと すきにーなっちゃうのー」

「あ、あれれ? ミルティア?」

 慌てるマホヒメに微笑みかけ、サクヤは祈りの歌を続ける。

「とどける! わたしのいのーりー!」

 旋律が響く中、ミルティアは慄き握っていた『魔法』のメダルを落としそうになる。辛うじて耐えたものの、祈りの歌はまだ一番も終わっていない。

「しんこうしんはー こいごーこーろー どーんーどーんーたーかーまーってー どーん!」

 圧倒的とも思えるサクヤの力に、ミルティアは体力気力メダル力、全ての力を出し切って耐えてみせる。それでも微笑むミルティアに、サクヤはさらに歌を続けていく。

「あっ! だめですめだひめさまー! きゃっ! そんなところはずかしい……」

 すかさず止めようとするミコトとコノハ。だが、旋律に乗った歌は二人の動きをも鈍らせていて、ひらりとかわしながらサクヤは祈りの歌を響かせる。

「めだひめさまと べっどのうえで ずっと そっと らぶらぶーするの」

 その旋律に――いや、その歌詞にマホヒメはサクヤを睨みつけ、

「わたしのからだも あなたにあげーるー」

 マホヒメの隣で身を震わせるミルティアから、一枚のメダルが地面に落ちる。――『太陽』。

「まいにちだってー すきにさーれちゃう(めだひめさま!)」

 さらにもう一枚、地面に小さな音を立てて。――『崩壊』。

「ふーれーられたらー うずうずしちゃってー ずっと きっと こころーとけちゃうのー」

 そして最後まで握っていた三枚目のメダルも、ミルティアの指を抜ける。――『魔法』。

「かさなる! めだひめさまーとー!」

 それでも旋律はサクヤの声により奏でられ、ミコトとコノハが止められない中、マホヒメが無言で睨みつけながらサクヤの方に歩いていく。

「しんこうしんはー こいごーこーろー じーわーじーわーたーかーまーってー じわっ!」

「たあっ!」

 祈りの歌の二番が終わった瞬間、マホヒメが背伸びをして伸ばした両手で、サクヤの口をしっかり塞いだ。旋律は消え、ミルティアの慄きも収まり、ミコトとコノハも自由になった。

「終わりましたよ、メダヒメ様」

 マホヒメの手を優しく捕まえて離して、サクヤは笑顔を見せる。神としての抵抗力を見せたマホヒメでも、幼い女の子の身体能力ではサクヤの口を塞ぎ続けることは叶わない。

「うー。何なのその力ー、ずるい!」

「完敗ですね。さすがです……サクヤさん」

 サクヤは捕まえたままのマホヒメの手をゆっくりと下ろしながら、腰を落としてマホヒメの耳元で囁く。

「マホヒメ様こそ、そんな可愛い手で塞ぐのはずるいですよ」

「むー。ずるくないもん。メダヒメお姉様は私の方が……あ!」

 慌てて逃げようとするマホヒメだが、手は未だにサクヤに捕まったままだ。

「分かっています。マホヒメ様も、メダヒメお姉様のことが大好きなことは」

「うー。違うったらー」

「そしてマホヒメ様は、メダヒメ様と結婚する私の未来の義妹です。一緒にメダヒメ様を愛しましょう!」

 文句を言うマホヒメに構わず続けるサクヤに、囁きを聞いていたメダヒメが口を開く。

「妹を勝手に仲間にしないでください。それからマホヒメも、素直になってくれるとお姉様は嬉しいな」

「……むー。す、素直も何も……ミルティア!」

「いいんですか?」

「いいの!」

 尋ねるミルティアにマホヒメは繰り返す。ミルティアは渋々といった様子で落としたメダルを拾って、再び魔法のメダルの力を発揮し、自身とマホヒメの姿を霧に包んでいく。

「すみませんが、今日はこれで……また会いましょう」

 魔法の霧が晴れたとき、そこにはマホヒメの姿もミルティアの姿もなかった。

 二人が姿を消して少し。大事そうに服の上からメダヒメメダルを抱いて、メダヒメを肌で感じようとするサクヤに、ミコトが声をかけた。

「第三段階のメダル、でいいんだよな?」

「ええ。祈りの歌で響かせたのは『旋律』の力よ」

 素直に答えを返したサクヤに、ミコトは質問を続ける。

「ミルティアがメダルを落としたのは『声』や『心』で工夫したのか?」

「それは『戦慄』の力ね。慄く方の。ま、分からないのも仕方ないわよね」

 返ってきた答えに、ミコトは言葉を失う。サクヤが隠していたメダルは、第三段階のメダルが二枚。その力はどちらも非常に高く、もし大会で使っていたら戦いはサクヤの圧勝で終わっていたことだろう。

 なぜそれを使わなかったのかは、改めて尋ねるまでもない。使う必要がなかった――そんな答えが返ってくるのは容易に想像できたから。

「……遠いな」

「ええ。遠いわよ」

 ミコトの呟きに、サクヤも呟きを返す。違った意味の遠い未来。メダヒメメダルを六十枚集めるのは遠い末来。ミコトがサクヤを倒せるのも、また遠い末来。

「でも、やるんだろ?」

「あんたこそ、協力するだけで終わるつもりはないんでしょ?」

 ミコトとサクヤは言葉をかけ合い、互いに微笑みを交換した。その光景を近くで眺めるメダヒメとコノハも、揃って微笑みを浮かべていた。


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