異世界からの誘拐犯は裁けない

第三話 戦勝記念祭


「なるほど。その魔法少女というのが……」

「ああ、間違いない。見間違えるはずもない」

 王城にて。明日花とフィーリーたち三人のメイド、そしてハイリエッタの五人が謁見室で話していた。戦勝報告は謁見室で王に、というのが決まりである。王が戦場に出ていてもその伝統は変わらない。王こそ不在ではあったが、フィーリーがメイドリーダーになり、ハイリエッタが隊長になってからは、ずっとその伝統は守られていた。

「澄川夕衣。俺の幼馴染みで、その、意中の相手だ」

「そうですか。あちらの事情はわかりませんが、お二人から聞いた話から察するに、強制されたものではないご様子。良かったではないですか、アスカ王」

「良かった?」

「意中の相手もこの世界にいるのなら、元の世界に帰還する必要もありません。私も誘拐犯などという濡れ衣を着せられていましたが、これっきりです」

「夕衣がこの世界にいても、誘拐の事実は変わらないからな」

「そうですか。それより、大事な話があります」

「なんだ?」

「戦勝記念のお祭りをしようかと。久々の大勝です」

「俺はそれよりも……」

「アスカさん、恋心はよくわからないので気持ちはわかりませんが、王として、重要な仕事です。内政のため、アスカ王には参加してもらいます」

 落ち着いて考えたいと思っていた明日花に、ココットが強い声で言った。メイシアやハイリエッタ、フィーリーも、声には出さないが真面目な顔で明日花を見ていた。

「今後のためにも、王が王であることは役に立ちますよ?」

「王であるために、か……」

 何となくだけで、まだ少し混乱したままの明日花は、はっきりとその言葉の意味を理解できなかった。しかし、ココットの言葉が信頼できることは知っている。明日花は呟いてから、大きく頷きを返した。

 戦勝記念のお祭りが始まったのは、その日の夜のことだった。臨時のお祭りなのにちゃんとしたお祭りになっていて明日花は驚いたが、フィーリーから戦後はいつもこんなものですと言われて納得した。おそらく、一週間前から準備はしていたのだろう。

「王様ー!」

「アスカ王ー!」

 バルコニーで聞く言葉は、誕生祭のときとほとんど変わらない。しかし、声は違った。誕生祭を終えて、すぐの戦での大勝。それも、王の姿を見て隣国の救世主が逃げ出したというのだから、詳しい事情を知らなければ勝利の立役者はアスカ王になる。

 国民の、王に対する信頼。それが意図しない形ではあるが、確実に生まれていた。

「ほんと、フィーリーの伝統も馬鹿にできないね!」

「そうそう。王ってすごいんだね!」

 城下町で聞こえてきたのはそんな声。軽く城下町を一周しただけでも、声ははっきり聞こえてきた。悪い気はしないが、それよりも考えたいことがあるので、明日花は国民からの二周目の提案は断ることにした。

「アスカ王は戦で疲れておいでです。またの機会にしましょう」

 フィーリーのその一言で国民はすぐに納得した。ちなみに、ハイリエッタはバルコニーの挨拶に出ただけで、祭りには不参加。ただ、偶然とはいえ勝利は勝利。気分がいいので今日は大きなお風呂の温泉に浸かるつもりらしい。

 明日花は一人、自室に戻り、ベランダで夜風を浴びる。最上階にある王の部屋。戦勝記念祭の喧騒も、ここなら少しは小さくなる。

「夕衣……」

 明日花は夜空に浮かぶ月を眺めて、想い人の名を呟いた。告白できなかった女の子。それが今、同じ空の下にいる。素直に喜ぶには、自分たちは面倒な立場にいるような気がしてならなかった。

「はふー……」

 同じ月、同じ空の下。魔法少女ユイこと、元日本の女子高生、澄川夕衣は縫いの国の露天風呂に浸かりながら、ぼんやりと月を眺めていた。

「明日花に見られた明日花に見られた明日花に見られた……」

 早口言葉のように呟いてから、大きく息を吸って、吐き出す。

「はうー……」

 さっきとはちょっと違うため息。露天風呂に浸かり始めてから、彼女は同じようなことを繰り返していた。

 露天風呂に浸かる少女の髪は、黒く長い。普段はストレートにしているが、お湯に浸かると痛むので今はタオルで軽くまとめている。瞳も黒で、同じ色。これが彼女の、魔法少女ではない普段の姿である。

 幼馴染みに魔法少女としての自分の姿を見られた。三日かけて考えた、自慢の前口上も全部聞かれた。とても恥ずかしい。ものすごく恥ずかしい。

「明日花に見られた明日花に聞かれたお嫁に行けない……」

 特に、美しく可憐な魔法少女、というあたりが恥ずかしい。元の世界では、そんなこと一度も自称したことはなかったから。明日花にどう思われたのか考えるだけで、ため息が出てしまう。

「あうー……」

 ぷかぷかとお湯に揺られながら、夜風で涼しい上半身。露天風呂は気持ちがいい。

「仕方ないから明日花に責任とってもらおうかな……ああでも、こんな恥ずかしい幼馴染みなんて、明日花もいらないよね……」

 そして更なるため息。

「はひゅー……」

 そろそろのぼせてしまいそうだ。夕衣はおもむろに立ち上がり、遠く東、幼馴染みのいるであろう百合の国の方角を眺めてみた。白ネコのマスコット、ヴィクセンから聞いた話だと、あの国には女の子しかいないらしい。ハーレムである。でも、うっかりすると大事なものを奪われるから、男の人は近寄らないらしい。それが何かも知っているけど、恥ずかしいので頭の中でも考えるのはやめておいた。

「よし! 切り替えないと!」

 そして夕衣は、魔法少女ユイになる。自分はこの国の救世主。自分で決めたこと。一人の幼馴染みに見られたくらい、些細なこと……と思いたかったが、そこまでの境地に至るにはもう少し時間が必要みたいだった。


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