四月 第一章 触手は神の使いじゃありませんわ。


導入 灯と成の帰り道


 二人の女の子が放課後の帰り道を歩いている。二人とも村立私立学校の高等部に通う一年生で、小中高の一貫教育であるから進学直後でもよく慣れた道である。

 ほんの少し背が高い少女は色倉灯〈しきくら あかり〉、並んで歩いて隣をほんの少し見上げる少女は大岩成〈おおいわ なる〉。幼馴染みでなかよしの二人が、こうしていっしょに帰る光景は、二人を知る村の人なら誰もが知るものである。

「ところで、灯はあの店にいった?」

 柔らかな髪を揺らして、成が新たな話題を口にする。

「噂の『ン・ロゥズ』だね。成ちゃんはいったの?」

 さらさらの髪はそよ風を受けて、灯が会話を続ける。

「ううん、私は近くに寄って見ただけ。窓から中も見たけど、普通の喫茶店みたいね」

「ピッツァカフェって書いてるんだよね。私は土曜日の朝にいこうと思ってるんだけど、成ちゃんもいっしょにいく?」

「朝からピッツァも魅力的ね。灯の誘いは断りたくないけど、断るわ。その日はやることがあるの」

「そっか。美味しかったらまた今度ね。成ちゃんは何をしてるの?」

「そうね……。大したことじゃないけれど、少し下半身を鍛えて――」

 二人の会話はまだまだ続く。話題を一つ、二つと変えて。それもとても魅力的な会話ではあるが、残念ながらこれから始まる物語にはそれほど関係はない。今はここまでにしておこう。


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